ANAセールス株式会社 白水政治氏に聞く

2015/05/23

《正しい心》を持っていなかったら、 リーダーを務める資格はない。

-今回はANAセールス株式会社で代表取締役社長を務めておられる白水政治さんにお話を伺います。白水さんは西南大学少林寺拳法部のご出身で、現在はANAセールス株式会社の先頭に立って経営の舵取りをされておられる、まさに社会のリーダーのお一人です。ビジネスマンとして、あるいは一社会人として少林寺拳法の教え、あるいは修行から得た学びをどのように実践してこられたか、お伺いします。まず少林寺拳法をはじめたきっかけをお聞かせ下さい。

白水 高校卒業後、一年浪人して西南大学に入りました。入学を機に何かはじめようと思い、高校時代に仲がよかった友人と家の近所で武道の道場を探したのです。多くの拳士も同じだと思うのですが、動機は「強くなりたい」。単純なものでしたね。たまたま南福岡に少林寺拳法の道院がありましてそこに入門しました。

-では、白水さんが西南大学に少林寺拳法部を設立したのですか?

白水 当時、西南大学の先輩が他の道院で稽古していらして、仲間を捜していたのです。当時、九州の他の大学には全て少林寺拳法部がありました。福岡大学、九州大学、長崎大学、久留米大学、鹿児島大学‥‥その中で西南大学だけがなかったのです。その方にたまたまお会いする機会があって、「うちの大学に少林寺拳法部がないのはアカンやろ‥‥お前もいっしょにやろうぜ!」「ぜひやりましょう!」ということで活動がはじまりました。

当然ながら最初から体育会にはなれませんので、まずは愛好会の手続きをしました。練習場所は体育館で合気道部が練習している場所の横を、「ここ空いているな」ということで、勝手に練習を始めました(笑)。それが最初です。

-ゼロからのスタートだったわけですね。学内の反応はどうでしたか?

白水 まずは、とにかく少林寺拳法部ができたということを知らしめないといけない。そう考えて、毎日わざと大きい声で掛け声をかけながらランニングをしました。また学園祭で短刀捕と棒術の演武をやりました。人が大勢通る中庭で、ド派手にやろうということだったのですけど、みんな気合が入り過ぎてしまい、お客さんはドン引きでした(笑)。あとからビデオを見て、「たしかにこれは恐いな」と私たちも思いました。わが部創設40年の歴史の中で、《伝説の学内演武》ということになっています(笑)。できたばかりで無名の存在ですから、まず存在感を示そうとしたのですね。

しばらくすると空手部やボクシング部あたりが練習を見に来ました。少林寺拳法が新規参入すると、他の武道系の部は部員が減る可能性があるわけですからね。それで「奴ら必ず邪魔をしにくるだろう‥‥」ということになり対策を練りました。「夜は闇討ちに遭うかもしれない」「一人で歩くな。2、3人で固まって歩け」と。さらには「ヌンチャクは持っておけよ」、と言う話になりまして(笑)。

-(笑)実際にトラブルはあったのですか?

白水 いえいえ、結局、そんなことは一回も起こりませんでした(笑)。まぁ、それくらい危機感を持って取り組んでいたということなのですけどね。

隣で稽古している合気道の連中も、最初は「なんだこいつら」という目で見ていました。ですが、私たちは「必ず礼儀を尽くそう」と決めていましたから、練習を始める時に「よろしくお願いします」、そして終わる時に「ありがとうございました」と彼らに対して必ず合掌礼をしました。それを続けていたら、合気道部も礼をしてくれるようになってきた。その辺りから関係が安定してきましたね。

-人を集めるのは苦労されたのでは?

白水 そうですね。とにかく人づてしかないので、自分のゼミの人間とか、友人知人などに声をかけまくりました。とにかく「やろうぜ!」と。それで、種々雑多な人間が集まってきましたね。

初代の先輩が4人。二代目である私たちの代は最後まで続けたのが9人くらいです。三代目が2人しかいなかったのですが、四代目が頑張ってくれまして、12〜13人入ってきました。そこから安定してきましたね。現在の西南大学の体育会の中では、おそらく少林寺拳法部がいちばん人数が多いと思います。

-大学で少林寺拳法部に所属した拳士は多いと思うのですが、部を立ち上げ、軌道に乗せるまでを経験した人はほとんどいませんよね。たいへんなご苦労だったとは思いますが、同時に貴重な経験だったのではないかと思います。

白水 何も分からない人間が集まってやっているわけですから、もうバラバラでしたけどね。その中で、しかし部をひとつにしていかなくてはならない‥‥よくあの時期を乗り越えていったな、と思います。当時は、考えてもいませんでしたけどね。

当時、「人生の中で、自分の盾になってくれる仲間をつくれ」と先生から教わりました。自分が窮地に陥ったときに、それを救ってくれるのは仲間だ、と。いま振り返って、その通りだと感じています。同期の9名、4名の先輩、そして後輩たちは、私に撮って盾になってくれる仲間だと思っています。

会社経営も一緒です。いつだって順調な時ばかりじゃありませんから。

うちの社員にはよく言うのです。「いまは苦しいかもしれないけど、必ずできる」と。苦しいときは誰にでも、そして何度でもあると思うのです。けれど、どんなに苦しくても仲間同志が支え合い、力をあわせて団結できれば、必ず乗り越えることができる。私はそう思っています。

-支え合うことで、お互いが盾となれる。そんな仲間がいることは素晴らしいと思います。困難に立ち向かっていくためには、組織が一眼となり、団結力を発揮することが大切だ、ということですね。

白水 それ以外に方法はない。私はそう思っています。

-そのためには組織をまとめ上げるリーダーの役割がたいへん重要になってきますね。組織が大きくなるほどに、メンバーの意識をひとつにするのは難しい‥‥この点について、白水さんのお考えをお聞かせ下さい。

白水 これは少林寺拳法でも同じことを言われますね。良い指導者になれ、社会のリーダーになれ、と。卒業後は少林寺拳法を再会する機会はなかったのですが、少林寺拳法の教えは、いまも私の精神的な支柱です。「少林寺拳法の考え方は組織の運営にぴったりだ」と思っていますが、実際に少林寺拳法の教えを意識しながら仕事するようになったのは、部長になった時からですね。10年以上前のことです。

白水 部長になったとき、自分の部下が100名くらいになりました。そのときはじめて「組織の運営は難しいな」と痛感しました。

-といいますと?

白水 それまでは、せいぜい部下は10名程度で、勝手に自分の好きなようにやっていれば、みんながついてきてくれるようなイメージでした。しかし100名にもなりますと、組織に向かない人間、そっぽを向いている人間‥‥必ずいるものです。こいつらをまとめるにはどうしたら良いのだ、と自問しました。そのときに、《上に立つ人間がしっかり考え方を示すことが必要だ》と実感しました。リーダーの考え方をいかに伝えるか。あとは自分の下にいる管理職がしっかりと担当するグループをまとめる。それをしっかりと意識づけさせないといけないのです。

-そのためにどのようなことを実行されていますか?

白水 今、課長以上の面談をやっているんです。毎朝30 分以上、課題を聞いたり、私の思うところを話したりします。私もそうでしたが、管理職は悩むものです。「なんでうちの部は上手くいかないのでしょうか?」「なぜ部下が言う事を聞かないのでしょうか?」とね。そういうときに「リーダーとは、こうあるべきなんだぞ」と話すと、スッと入っていくケースが多々あります。

-経験を積んできた白水さんの言葉だからこそ、心にしみるのでしょうね。

白水 自信満々の人間には、なかなかそういう事を話しても分からないかもしれない。悩んでいる時こそ、人の言葉のありがたみが分かる。そういう時が、学び、変わるチャンスなのかもしれないですね。

-そうですね。

白水 経済同友会主催の勉強会というものがありまして、毎月一回ずつ集まって、経営のトップの方々のお話を聞くのです。私もそこに出席する機会に恵まれまして、超一流といわれる経営者の方々のお話を聞くことができたのですが、どの方のお話も、奥深くにあるものは少林寺拳法の教えと同じだと感じました。皆さん同じように、基本はやはり「人だ」とおっしゃる。最終的には人が組織を作るし、強くする。組織が発展するのはそこだ、と。だから人をしっかり育てるのだ、ということなんですね。

以前、NHKのテレビで松下幸之助さんのインタビューを見たのですが、その中で「あなたは商売の神様といわれてますけど、やっぱり儲かるということがいちばん大切ですよね?」という質問に対して松下氏は「いや、それは違いまっせ」「儲かることが先に立ったら、事が汚くなりますから」とおっしゃったんです。「あ、やっぱりそうか」、と思いました。

-自分の利益だけを考えていると、事が汚くなる。すなわち人の在り方として汚くなってしまうということでしょうか?

白水 私の場合であれば、ANA(全日本空輸株式会社)あるいはANAセールス株式会社だけが利益を上げれば良い、という考え方だったらたぶん続かない。どこかで終わってしまうと思っています。だからこそ全てにおいて《半ばは人の幸せを》考えることが大切になってくる。ビジネスでいえばお客様の満足はもちろんのこと、取引企業の利益も考えてあげなくてはいけない。他のことは全部否定して、自分のところだけ発展していけば勝ち組として残れるという考えは、私は間違いだと思いますね。

-自分さえ良ければ良いという考えは、つきつめてしまうと一方的に奪うだけの営みに堕してしまう。その対極にある分かち合い、あるいは循環という理念こそ、持続可能な豊かさを実現することが可能であり、それを指摘していたのが松下幸之助さんであり、宗道臣の言葉であったのだと思います。

白水 その意味で前述の松下さんのお言葉は、表現こそ違いますけど開祖がおっしゃった「半ば自己の幸せを 半ばは他人の幸せを」と相通じる理念だと感じたわけです。

-さて、少林寺拳法は社会のリーダー作りを志しています。白水さんが感じておられるリーダーの在り方についてお聞かせ下さい。

白水 正しい心を持つことだと思いますね。まず正しい心を持っていなかったら、リーダーをやってはいけない。これはうちの管理職はもちろん、新入社員にも必ず伝えています。

正しい心がなにか、これがとても難しい議論なのですけどね。例えば、弱いものイジメをしない、あるいは嘘をつかない。困った人がいたならば助けてあげる。卑劣な事をしない‥‥とか。ごくごくシンプルなことだと私は思うのですけどね。

-昔から「お天道様に恥じない生き方をしろ」とか言いますよね。大切なことは、白水さんのおっしゃるようにシンプルなことだと思います。

白水 そうです。そういう考え方の元に仕事の判断をしろ、ということですね。ですからリーダーとなるべき人間は、まずその考え方ができるかどうか、です。それがなければ、その組織はきっと正しく動くことはないでしょうね。もちろん、俗にいうリーダー論‥‥例えば目標を部下にちゃんと示すとか、そういったことは当たり前ですけどね。

-それらはテクニック的なもので、それを支える土台となるものが白水さんがおっしゃった《正しい心》なのでしょうね。では最後に少林寺拳法の拳士たち、とくにこれからの日本を背負っていく若い拳士たちにメッセージをお願いします。

白水 そうですね。私はいま58歳になりますが、少林寺拳法で学んできた事は間違いではありませんでした。まずこれははっきり言えます。いま皆さんが学んでいること、厳しい修行はもちろんですが、開祖の教え、先生、先輩の言葉ひとつひとつ。それらは絶対に自分の将来の宝になるはずです。たとえいまはその意味が分からないとしても、です。経験を重ねるほどに、少林寺拳法の教えの意味が分かりだす、というかじわじわと実感できて、自分のものになってきますよ。だから、絶対にあきらめずに、自信を持って修行してください。

そのうえで、開祖がおっしゃっていたように、日本を元気にする社会のリーダーを目指して欲しいですね。

人生は長い。たぶんいろいろな困難に直面するだろうし、挫折も当然あるでしょう。けれど絶対に乗り越えることができるはずです。そして自己の成長はその先にあるのです。

困難に目を背けることは簡単だけれど、それでは成長できない。困難に立ち向かっていって、たくましく成長して欲しい。それで日本を引っ張って欲しいなと思います。

-本当にそうですね。考えてみれば人生は死ぬまで困難の連続かもしれません。つらいかも知れないけれど、だからこそ死ぬまで人は成長できる。開祖だって、最後まで拳士の前に立って言葉をかけ続けたわけですからね。たいへん勉強になりました。どうもありがとうございました。(2015年3月6日 ANAセールス株式会社にて)

白水氏写真

白水政治氏プロフィール
1957(昭和32)年、福岡県生まれ。80年、西南学院大学法学部卒業後、全日本空輸株式会社に入社。2007年福岡支店副支店長、2011年 大阪支店副支店長、2014年4月よりANAセールス株式会社代表取締役社長に就任。西南学院大学在学中は、少林寺拳法部の設立に携わり、部活動に明け暮れる日々を過ごした。現在もOB会である《西林会》の活動を通して、現役を支援する。少林寺拳法二段。