「できる子」の心のエネルギー不足に注意

2015/07/27

幼いころから何でも自分でやろうとする子だった。学校でも優等生だった‥‥。不登校、引きこもり、家庭内暴力、リストカット、食行動異常などの問題のある子供の生育歴を丁寧に調べていくと、過去に、親や先生の言うことをよく守り、自分から進んで勉強にも取り組んだ「よい子」だったエピソードに出会うことがあります。
 申し分のない「よい子」から「問題行動を示す子」の間には何があったのでしょう。そこに長年横たわっていたのは心のエネルギー不足です。親や教師を含め、周囲にいる人は、その子の輝く側面に目を奪われ、エネルギー不足になり失速しまいと必死にもがく側面に気づけないことが少なくないのです。教育カウンセリングで「優等生の息切れ型」といわれる問題です。
 SOSサインの一つに「意欲の空回り」現象があります。「次の試合も頑張る!」「こんどこそ百点取る!」など意欲だけは示すのですが、次第に結果が伴わなくなり、焦りの気持ちが判断力を鈍らせ、意欲だけが空回りする状態です。
 もう一つのサインに「退行」現象があります。いわゆる赤ちゃん返りです。急に身の回りのことができなくなり、「幼い子供のようにいつも母親のあとを追う」「服などを着せてもらいたがる」「食べ物を口に入れてもらいたがる」など、幼児のような行動になってしまうことです。
 「よい子」であればあるほど、親はこうした甘えた行動を受け入れられず「お姉ちゃんなのに、何言っているの!」「しっかりしなさい」などと、もとの「よい子」に戻そうとします。しかし、そうした働きかけが多くなるほど退行現象はどんどん悪化してしまうのです。
 「しっかりふるまっているうちは心のエネルギーがもらえない」と無意識に察し、「しっかりしない状態」まで戻ることで、心のエネルギーを補充しようとする子供なりのもがきが退行症状なのです。  親も指導者も、できる子、よい子の心のエネルギー補充状態を点検する必要があるのです。

執筆者:菅野純 1950(昭和25)年、宮城県仙台市生まれ。早稲田大学卒業後、同大学院修了。発達心理学・臨床心理学専攻。東京都八王子市教育センター教育相談員を経て、早稲田大学人間科学学術院教授を2015年3月まで務める。現在も、不登校、いじめ、非行など、さまざまな子供へのカウンセリングに加え、学校崩壊をはじめとする学校のコンサルテーションに取り組む。<心の基礎>教育を学ぶ会会長。著書は『武道──心を育む』(日本武道館出版)など多数。