「何かに打ちこむこと」「チャレンジすること」が輝き続ける秘訣

2019/05/08

今回は、東京大学少林寺拳法部OBで、警察で長く活躍されて警視総監まで務められた吉田尚正さんにお話しを伺います。

 

Q なぜ、東大少林寺拳法部に入部されたのですか。

 高校が進学校で多くの仲間が目指していたこともあり、東大に入学しました。少林寺拳法部には、もともと運動が好きだったこと、他の球技等と違って初心者からでもできること、また、知人が少林寺拳法をやっていたことから、入部しました。

Q 部の雰囲気はどうでしたか。

 部員が多く、上下関係が厳しい中で練習をしていました。しかしながら、練習から離れるとお互い親しみやすい雰囲気があり、今でも先輩後輩のよい関係が続く一因となっています。また、少林寺拳法をしたことで、他大学の人たちとも合掌礼一つでつながり合える下地になったと思います。

Q 少林寺拳法を通じて、先輩、同期、後輩等から学んだことはありますか。

 先輩は乱捕、演武に長けているとともに、学業もしっかりされており、文武両道の姿に私も追いつきたいと思いました。また、当時の真田玉雄監督は、先見性のある指導(ビデオ活用やストレッチの導入など)をされ今でも参考になっています。同期は当初30名ほどで最終的に18名になりましたが、互いに切磋琢磨しました。後輩の中には腕に覚えのある者もいたため負けないように頑張るとともに、いつでも見られているという意識で臨みました。

Q なぜ、警察を志しましたか。

 少林寺拳法部の2年先輩に警察に進まれた方がおられて、先輩となら一緒にやっていけるという気持ちもあって警察に入りました。人間関係が大きく影響したと思います。

Q 職務中の興味深い出来事があれば教えてください。

 2つあります。一つ目は、警察の活動には市民の協力が必要だということです。オウム真理教特別手配犯追跡時に、市民の協力を得て逮捕に至りました。また、トランプ大統領来日時にも警備や交通検問で協力をいただきました。二つ目は、安全を守る警察の活動は社会・経済活動の基本だということです。福岡県警本部長時代に暴力団対策を行い、市民から安心して街を歩くことができるようになった、と感謝されたことは忘れません。

Q 人を護るために必要なことは何でしょうか。

 安全(人)を守る(護る)ためには、少林寺拳法でいう「自己確立」が必要です。自己を確立し、自分が幸せであって初めて他を守る(護る)ことができる。少林寺拳法の「自他共楽」に通じます。こうした意味においては、少林寺拳法の教え、技は警察向きだともいえます。現在、少林寺拳法連盟でも警察の支部づくりに力をいれていると聞いています。

Q 警視総監時代、部下(若者)の教育にあたって、どのようなことに心掛けていましたか。

 5万人の組織ですから、指示はシンプルでなければ伝わりません。こうした認識の下、「正しく、強く、温かく」をモットーに、努めて外に出て話をし、部下(特に若者、女性)の意見を聴きました。警察署102ケ所を回り、アイディアなどを聴き、一般論ではなく、具体的な情報などに接したことにより、いろいろな気づきを得ました。

Q 昔と現代では、部下の教育に違いはありますか。

 基本的には変わらないと思います。しかしながら、時代の変化に応じて変えていく必要があります。現代の若者はいろいろな情報を持っています。かつてのような「俺の背中を見てついて来い」式の精神論だけではなく、具体的で筋道の通った教育も必要になります。マニュアル化なども有効かも知れません。

Q リーダーとしてどのようなことに気をつけるべきでしょうか。

 「人の話を聴く、判断は速く、判断をしたら任せる」ことだと思います。一人でできることは限られますので、多くの話を聴き、それを基に素早く判断を下す。判断をしたら任せる。状況がおかしくなれば管理者として調整しますが、あまり口出ししない、という我慢も大切です。

 話を聴くためには、部下が話しやすい雰囲気づくりに努める必要があります。勿論、ベテランの意見も素晴らしいですが、上から目線でなく若い人の意見もよく聴いて取り入れる。現場の意見の重要さを痛感しています。

Q いつまでも輝き続けるための秘訣はありますか。

 まず、「何かに打ち込む」ことです。これは自信につながります。私も大学時代には学業と少林寺拳法に打ち込みました。

 次に、進歩・向上を目指して「チャレンジする」ことです。このため、目の前の目標を設定し、コツコツと努力することです。一つ一つの積み重ねが大切です。警察に入ってからは、海外での活動を目指して毎日英語やドイツ語を勉強しましたし、少林寺拳法の他に、職務の一環として柔道、剣道にも取り組みました。現状に安住せず、将来に向けてチャレンジすることが輝き続ける秘訣だと思います。

Q 現代の若者へのアドバイス、激励などがあればお願いします。

 「何になりたいか」ではなく、「何をやりたいか」という意識を持つことです。何かをやりたい気持ちをもって臨めば、結果がついてきます。私は、警察勤務時代はいつでも「やりたい気持ち」をもって臨んできました。結果として責任ある立場についてきたと思っています。

 また、若い時は「失敗を恐れない」ことです。失敗からは学ぶことができます。私も警察の仕事で失敗から学び、次に活かす経験をしました。ただ、一度失敗したら同じ失敗はしないことです。

 私たちが40年前に想像できなかったスマホなどの技術等が現実のものとなっています。今後も、自動運転など想像できない進歩があるでしょう。これからは若者の出番です。将来にわたって輝き続けるために頑張ってもらいたいと思います。

 

本日は、ご自身の体験に基づく貴重なお話をいただきありがとうございました。

 

【吉田尚正氏プロフィール】

 広島県広島市出身。灘高校、東京大学法学部卒業。1983年警察庁入庁、1995年在アメリカ日本国大使館(一等書記官)、2006年4月宮崎県警本部長、2015年1月福岡県警本部長、2016年8月警察庁刑事局長、2017年9月第94代警視総監を歴任。2018年9月辞職し現在トヨタ自動車株式会社顧問。大学在学中に少林寺拳法部所属(3段取得)。