「分かった!」「できた!」という喜びを

2016/11/28

 「分かった!」「できた!」という体験をしたとき、人間の心にはエネルギーがどっと湧き上がり「もっとやりたい」「さらに挑戦したい」という気持ちになります。

 教育や指導のコツはこうした「分からなかった自分」から「分かるようになった自分」への変身、「できなかった自分」から「できるようになった自分」への変身を応援することです。私はこうした変身を「プラスの変身」と名付けています。

 子供が成長の過程でより多くのプラスの変身を図るには指導者の次のような配慮と工夫が大切です。

①子供の現在の力量を正しく把握する(ベースラインを定めることで、変化に気付くことができます)

②子供が「何を、どうすればよいか」がよく分かる言葉で指導する(ともすれば指導の言葉には抽象的な言葉が少なくありません。「頑張れ」「しっかりしなさい」「将来のため」「やる気だして」「ちゃんとしなさい」‥‥。そうした言葉には「何を、どうすればよいか」という手がかりが含まれていないため、子供の方は戸惑ってしまうのです)

③タイミングよく褒める・子供の心に響くような言葉で褒める(例:「今の返事、よかった!張りのある声で、「やるぞっていう気持ちがみんなにも伝わったぞ」)

④「何が変化したのか」を言語化する(例:「小学三年のころと比べて、四年になったら足の踏み込む音が大きく鋭くなったよ」)        *  *  *

 こうした指導者の言葉によって、子供の心の中に「分かった!」「できた!」の喜びとともに、次に向かって歩むための心のエネルギーが湧いてくるのです。その繰り返しの中で、子供は次第に、自分で自分のプラスの変身に気がつくようになり、自分の力で自分にエネルギーを与えながら歩むようになるのです。

 

執筆者:菅野純 1950(昭和25)年、宮城県仙台市生まれ。早稲田大学卒業後、同大学院修了。発達心理学・臨床心理学専攻。東京都八王子市教育センター教育相談員を経て、早稲田大学人間科学学術院教授を2015年3月まで務める。現在も、不登校、いじめ、非行など、さまざまな子供へのカウンセリングに加え、学校崩壊をはじめとする学校のコンサルテーションに取り組む。<心の基礎>教育を学ぶ会会長。著書は『武道──心を育む』(日本武道館出版)など多数。