vol.25 ことばのちから

2012/12/01

aun_m_vol25今からちょうど100年後の、2112年9月3日は、ドラえもんが子守り用ネコ型ロボットとして誕生した日です。

ドラえもんは、勉強もだめ、スポーツもだめ、ジャンケンさえ勝ったためしがない、そんな腑甲斐ないご先祖様の、のび太を大改造するため、のび太の孫の孫(玄孫)が未来から二十世紀に送り出し、面倒を見させることになったそうです。

専攻する生涯スポーツ論とともに、ドラえもんの研究で有名な、富山大学名誉教授の横山泰行先生は「ドラえもんのことば」をことし4月に刊行されました。その中で「ドラえもんには、どう困難を乗り越えればよいかを考えるヒントが詰まっている」として、「行動と学びを促すことば」「陰から支えることば」「互いの信頼を表すことば」「仲間との協調を生むことば」などの六つの視点から、のび太の成長を手助けしたドラえもんのことばを紹介しています。

例えば、「人にできて、君だけにできないなんてあるもんか」と、嫌なことを先延ばしにしてしまうのび太に、のび太と同じ目線で励ますドラえもんのことばには、偉人の名言にはない癒やしと温かさがあるといいます。子守り用ネコ型ロボットであるドラえもんは、毎日のび太に全神経を集中させ、のび太の発言に対して心から興味や関心を示します。また、のび太のすばらしいアイデアや動植物に対する優しいふるまいに心から共感しつつ、相互信頼を高めていきます。だからこそ、ドラえもんものび太も共に一歩一歩前進し成長していることを実感することができたのです。

ドラえもんのことばには、私たちの目指す自己確立、自他共楽の修行に通じる共感、信頼、共に成長するといった内容が詰まっています。

さて、釈尊の教団は在家の信者に対して、社会人として守らなければならない徳目として、四摂法の実践を説いています。
  布施 施しあたえること
  愛語 慈愛のことばをかけること
  利行 他人のためになる行為
  同事 他人と協力すること

これらの徳目は今日の家庭や職場、地域社会における人間関係や団体行動に極めて実効的で社会性を持つものです。四摂法は根本仏教と現代の社会生活を結ぶキーワードであり、生活の中でこの四つの簡素な徳目を実践することは、在家修行者である私たち金剛禅門信徒にとっても適切であると思われます。

ドラえもんのことばこそ四摂法の愛語にあたります。ドラえもんの、時には優しく、時には厳しい愛語により、のび太でさえ変わることができたのです。私たちは身心一如の修行により自己を変革しようとしています。そのためには同志相互の切磋を忘れてはならず、同じ道を進む仲間に対して、愛語の精神で向き合うことが共に成長し合うことに繋がります。また、愛語を素直に受け入れる初生の赤子としての心構えも必要です。

愛語をかけることも一つの行動です。その行動により、変わる人がいます。そのことばを待っている人がいます。

家族や周囲の人々、そして金剛禅の道を歩む同志に、愛語をかけましょう。愛語にはその人の一生を変える力があるのですから。

(文/東山 忠裕)