ケガしたときには 「あ・れ・やっ・た」

2019/07/01

 少林寺拳法の稽古中や講習会・大会中に、しばしばケガが起きることがあります。すり傷(擦過創)、切り傷(切創)など出血を伴うケガから打ち身(打撲・挫傷)、捻挫、骨折、脱臼などのケガです。

 医学的には、皮膚が破れて出血しているケガを「創」、皮膚は破れていないケガを「傷」と区分します。したがって切り傷は「切創」、打ち身は「挫傷」なのです。

 相手の拳などが当たって、顔や頭にキズができると出血します。この部位は血流が豊富なため、たくさん出血しているように見えますが、「顔が血だらけ!」のように大変なケガのように見えることがありますが、多くは、きれいなタオルや大きめのハンカチなどで5分ほどしっかり圧迫すれば、ほとんど止まるものです。

 手指の出血に対しても同じように圧迫で止血することができます。指の根元を輪ゴムで締めつけるようなことは禁止です。指の血流が悪くなって組織や神経をひどく痛めてしまうことがあるため、絶対にしないで下さい。

 打ち身、捻挫、骨折などのケガが予想される場合のその現場での応急手当の基本原則は、内出血と炎症(①痛み ②発赤 ③腫れ ④局所熱感)を抑えることです。そのためには、RICE処置を行います。

 R(Rest:安静)、I(Icing:冷却)、C(Compression:圧迫)、E(Eleration:挙上)の頭文字を並べたものです。ケガした部分を軽く圧迫し、氷で冷やし(直接氷を肌に当てると凍傷をきたすことがあるので、タオルを間に挟む)、副木の代わりになるダンボール、雑誌などで固定して安静を図り、ケガした部位を心臓の位置より高く挙げるという処置です。

 子どもでも覚えやすいように、日本語版があります。「あ・れ・やっ・た」(『マンガ運動器のおはなし 大人もしらないからだの本』(運動器の健康日本協会 2005年)です。

 あ=圧迫、れ=冷却、や=休む、た=高くする、と覚えておくと便利です。ケガをした時には、「あれやった!?」とお互いに声かけ合うと良いでしょう。

 突き指や脱臼のケガなども、現場でしばしば発生します。突き指では、小さな骨折を伴ったり、指を伸ばす腱が切れていることもありますので、その場で「指を引っぱれば直せる」と、無理に指を引っぱるとさらにケガの状況が悪化します。こちらも「あ・れ・やっ・た」なのです。

 脱臼の場合も、関節がずれているだけでなく骨折や靭帯の損傷を伴っていることがありますので、整形外科でX線検査で確認した後、整復することが必要です。

 

執筆者:武藤芳照 東京健康リハビリテーション総合研究所所長、東京大学名誉教授。専門:健康スポーツ医学。1950(昭和25)年、愛知県生まれ。75年、名古屋大学医学部卒業。80年、名古屋大学大学院医学研究科修了。医学博士。93年、東京大学教授。95年、東京大学大学院教授。2009年、同大教育学研究科長・教育学部長。11年、東京大学理事・副学長ならびに政策ビジョン研究センター教授。ロサンゼルス、ソウル、バルセロナ五輪の水泳チームドクター。日本転倒予防学会理事長、スポーツ・コンプライアンス教育振興機構代表理事。