ルールと安全を守る

2018/06/28

東京健康リハビリテーション総合研究所 所長

武藤芳照の視点

 スポーツや武道にケガはつきもの、と言われます。ルール・規則を守っていても、激しくぶつかり合う格闘競技的要素の入ったアメリカン・フットボールやラグビー、サッカー、バスケットボールなどのスポーツで、負傷する例は少なくありません。個人競技と呼ばれる陸上、水泳においても様々なケガが発生します。まして、武道では元々相手を打ち負かすことを前提として競技が組み立てられており、ケガの危険性は、大きいものです。

 先般、社会的問題にまで発展した日本大学アメリカン・フットボール部選手の危険きわまりない悪質で卑怯な反則行為による関西学院(かんせいがくいん)大学選手のケガの事件は、そうしたルール内のスポーツを逸脱したものでした。

 ルールとフェアプレイ精神を守り、安全に配慮していてもなお、スポーツや武道にはケガがつきものといわざるを得ないのです。まして、ルールを破り、フェアプレイ精神を踏みにじり、安全配慮を無視した行為(「プレイ」や「競技」の枠を大きくはずれている)が行われれば、大ケガを招き、場合によっては、脊椎・脊髄損傷や頭部外傷等をきたし、四肢麻痺やさらには死を招くような重篤な事態が起きるリスクがあるのです。

 少林寺拳法の指導・教育に当たっては、その基本理念と目標をまず明確に伝え、基本技術を磨き、それを可能にする体力・運動能力を高める方法・訓練を指導し、起き得るケガ・故障の例を示しつつ、その予防法を語ることが必要です。元々危険性を内在しているのが武道ですから、とりわけ競技規則で禁じられている技や行為、なぜそれらが禁じられ、どのようなケガが起きるのかも含めて説明しなければなりません。

 そして何よりも、少林寺拳法、スポーツの精神、立ち居振る舞い、礼節の重要さを伝えることが大切です。それと共に、少林寺拳法に参画することの楽しさ、面白さを伝え、少林寺拳法に生涯に渡って関わり続けたいと自然に思えるような指導者の人間的魅力を磨くことが、指導・教育の質を高め、無用なケガや事故を防ぐことにつながるものと確信しています。

 

執筆者:武藤芳照 東京健康リハビリテーション総合研究所 所長 、東京大学名誉教授。1950(昭和25)年、愛知県生まれ。75年、名古屋大学医学部卒業。80年、名古屋大学大学院医学研究科修了。93(平成5)年、東京大学教授。95年、東京大学大学院教授。2009年、同大学教育学研究科長・教育学部長。11年、東京大学理事・副学長ならびに政策ビジョン研究センター教授。ロサンゼルス、ソウル、バルセロナ五輪の水泳チームドクター。日本転倒予防学会理事長。スポーツ・コンプライアンス教育振興機構代表理事。

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