子どもから心のエネルギーを奪う もの

2015/09/25

   父親は子煩悩、一人っ子である少年をよく可愛がり、出張の時などお土産を買ってきてくれる。母親も教育熱心で少年のことを大事に思っていることがよくわかる。しかし、なぜか子どもの心はエネルギー満タンからは程遠く、精気がなく、学年が進むに連れて学校も休みがちになっている・・・こんな事例があります。
 両親からはそれぞれ愛情エネルギーを注がれているはずなのに、それが心に蓄積されず、心のエネルギー枯渇状態になってしまう理由は何でしょうか? それは両親の不仲です。少年に対してはそれぞれの親が愛情を注いでも、両親が常に互いを非難し、否定しあって暮らしているために、母親が与えた心のエネルギーは父親に否定され、父親が与えたエネルギーは母親によって否定され、少年の心の中では父と母の代理戦争状態となっていたのです。
 「お母さんは、お父さんのこと大嫌いだけど、あなたは好きになってね」と少年は毎日言われたそうです。ずいぶん矛盾したメッセージではないでしょうか。もしメッセージどおり父親を好きになっても、母親は決してうれしく思わないでしょう。母親のいる前で父親が少年にプレゼントを渡そうとしたりすると、少年は無表情のまま、固まってしまうそうです。
 少年の心の中では、双方の親に対する気遣いが葛藤し、エネルギーがどんどん消耗していったのでしょう。加えて、「僕の家はこれからどうなるのだろうか?」という不安とも戦わなければなりません。
 カウンセリングで出会う親たちは、自分たちの諍いや反目が、わが子からやる気の素となる心のエネルギーの奪っていることに、案外無頓着です。わが子の心への影響を思いやる余裕がない場合もあります。
 わが子が「やる気がない」とイライラする時、その原因は自分たち親自らが作っているかも知れない、と立ち止まることが大人として大切なのです。

執筆者:菅野純 1950(昭和25)年、宮城県仙台市生まれ。早稲田大学卒業後、同大学院修了。発達心理学・臨床心理学専攻。東京都八王子市教育センター教育相談員を経て、早稲田大学人間科学学術院教授を2015年3月まで務める。現在も、不登校、いじめ、非行など、さまざまな子供へのカウンセリングに加え、学校崩壊をはじめとする学校のコンサルテーションに取り組む。<心の基礎>教育を学ぶ会会長。著書は『武道──心を育む』(日本武道館出版)など多数。