新入生への指導力

2017/06/28

 女性同士の先輩と新入生との会話。「もしわかんないことがあったら、何でも聞いて」、「ハイ!」。「でも、ちゃんと自分で考えなきゃダメだからね!」、「ハイ!」。実は、幼稚園の年長組の女の子と新入園児の女の子との会話です。朝、手をつないで並んで幼稚園に向かって歩いている時に、近くを通りかかってたまたま耳にしたものです。少しばかり前を行く一方の母親は、ニコニコとしてその会話を聞いていました。

 この女の子に限らず、幼稚園、学校、教室、部活動などの新入生は、期待と不安を胸に、それぞれの門に入ってきます。「どんな先生だろうか?」「教わったことが、ちゃんとできるだろうか?」「先輩たちはやさしく接してくれるだろうか?」などと、いろいろと心配しつつも、「楽しいといいな」「良い仲間と出会えるといいな」などの希望を抱いているものです。

 少林寺拳法の「健康教室」の門をたたいて参加してくる新入生も、年代は違っても、ほぼ同じ心境でしょう。

 新入生の立場からは、先生/指導者との距離は大きいものです。指導者側が極力、新入生がリラックスして、からだを動かすことができ、必要な技術や動作を楽しく身につけることができるように、配慮することはとても大切です。それと共に、1年でも先輩の同じ教室の参加者が、自身の経験を基に、いろいろと言葉かけや助言をしてくれれば、新入生の不安と緊張は、随分と和らぐものです。結果、技術の上達、動作の習得に役立つと共に、ケガや事故の予防にも結びつくものです。

 中高年の健康と美容のための運動・スポーツなどの教室で最も大切なのは、参加者の「笑顔が指標」なのです。そうした雰囲気をうまく作り上げるためにも、新入生に対して先輩たちが、ある意味指導者の役割りの一部を担ってもらうことで、その教室のチームとしての指導力が向上するのです。

執筆者:武藤芳照 学校法人 日本体育大学 日体大総合研究所所長、日本体育大学保健医療学部教授、東京大学総長顧問/名誉教授。1950(昭和25)年、愛知県生まれ。75年、名古屋大学医学部卒業。80年、名古屋大学大学院医学研究科修了。93(平成5)年、東京大学教育学部身体教育学講座教授。95年、東京大学教育学研究科身体教育学講座教授。2009年、教育学研究科長・教育学部長。11年、東京大学理事・副学長ならびに政策ビジョン研究センター教授。ロサンゼルス、ソウル、バルセロナ五輪の水泳チームドクター。日本転倒予防学会理事長。

mutoh