正しい言葉

2017/02/28

およそ「師」や「士」などの付く専門職や「先生」と呼ばれる人は、様々な場面で他者に語りかけることが求められます。少林寺拳法の指導者も、健康プログラムの会員や拳士らにいろいろな話をすることが多々あることでしょう。

 先般、首相が「訂正云々(ていせいうんぬん)」を「……でんでん」と誤って読みました。某コメンテーターは、テレビ番組で、「老若男女(ろうにゃくなんにょ)」を「……だんじょ」と誤読していました。誰にも過ちはあるものですが、指導の立場にある人から間違った言葉が発せられると、聞いている方はがっかりしてしまいます。

 武道やスポーツの指導者、コーチの発する言葉には「力」があり、選手、受講者、一般の人々に勇気や希望を与えることができます。その一方、暴言という形の「力」は、心を傷つける、士気や意欲を損ない、悲しみや怒りを生み出すものです。

 だからこそ、指導に立った人は、正しい言葉を使うことを常に意識することが必要なのです。

 「情けは人の為ならず」を「本人の自立のために良くない」と誤解している人もいます。正しい意味は、「情けをかけておけば、巡り巡って自分に良い報いが来る」のです。なかなか上達・向上しないで悩んでいる生徒に親切に正しい言葉をかけてあげれば、いつか巡り巡って、自分自身が良い形で報われるものです。「気が置けない」を「気が許せない、油断できない」と誤解している人も。正しくは「気遣いする必要がない、遠慮がない」の意味です。少林寺拳法の道場が、気の置けない仲間の集う場となれば(うれ)しいことです。

執筆者:武藤芳照 学校法人 日本体育大学 日体大総合研究所所長、日本体育大学保健医療学部教授、東京大学総長顧問/名誉教授。1950(昭和25)年、愛知県生まれ。75年、名古屋大学医学部卒業。80年、名古屋大学大学院医学研究科修了。93(平成5)年、東京大学教育学部身体教育学講座教授。95年、東京大学教育学研究科身体教育学講座教授。2009年、教育学研究科長・教育学部長。11年、東京大学理事・副学長ならびに政策ビジョン研究センター教授。ロサンゼルス、ソウル、バルセロナ五輪の水泳チームドクター。日本転倒予防学会理事長。

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