発達障害をめぐる「困り感」

2018/05/02

 発達障害児にはとらえにくい面がたくさんあります。難しい言葉を喋ったり、大人でも読めない漢字を読めたりできる反面、文章の内容を理解したり、言葉の背後にある隠れた意味を推察することができません。親として、指導者として、発達障害児にかかわる時に陥る感情は「苛立ち」ではないでしょうか。

 「分かっているはずなのにやろうとしない」「難しいことはできるのに三歳の子どもでも分かりそうなことが分からない」‥‥。こうした苛立ちは、その子をなんとかしたいという切ない願い、つまり「困り感」からくるものがほとんどでしょう。

 こうした困り感に根ざした苛立ちは、子どもへの強い働きかけになってしまうことが少なくありません。怖い表情、叱る、脅す‥‥。分からせようとするほど、子どもを追い詰め、萎縮させてしまうのです。この時、誰よりも困っているのは発達障害児自身なのです。

 発達障害児の中では困り感でいっぱいなのに、親や指導者は次のように受け取ってしまいます。 

①何をやれば良いかわからないで困っている→「やる気がない」

②親や先生の言う言葉の意味が分からない→「自分勝手なことばかりする」

③うまく状況判断ができず困っている→「指示通り動かない」

④言われたことを頑なに守ろうとする→「気働きができない、要領が悪い」

 周囲から理解されないまま子供の心の中に蓄積された困り感は、パニックのような形で爆発したり、時に自己イメージを深く傷つけられ、無気力や引きこもり、うつ状態などの不適応行動につながってしまいます。発達障害児の認知や思考のあり方を正しく知ることで、親・指導者そして子ども双方の困り感を取り除いていくことが可能になるのです。

【執 筆 者 : 菅 野 純】 1950(昭和 25) 年 、 宮 城 県 仙 台 市 生 ま れ 。 早 稲 田 大 学 卒 業 後 、 同大 学 院 修 了 。発 達 心 理 学・臨 床 心 理 学 専 攻 。東 京 都 八 王 子 市 教 育 セ ン タ ー 教 育 相 談 員を 経 て 、早 稲 田 大 学 人 間 科 学 学 術 院 教 授 を 2015 年 3 月 ま で 務 め る 。現 在 も 、不 登 校 、い じ め 、非 行 な ど 、さ ま ざ ま な 子 供 へ の カ ウ ン セ リ ン グ に 加 え 、学 校 崩 壊 を は じ め とす る 学 校 の コ ン サ ル テ ー シ ョ ン に 取 り 組 む 。 < 心 の 基 礎 > 教 育 を 学 ぶ 会 会 長 。 著 書 は 『 武 道 ─ ─ 心 を 育 む 』( 日 本 武 道 館 出 版 ) な ど 多 数。