社会的能力を支える心のエネルギー

2016/10/03

 時間を守る、ルールを守る、自分の気持ちや考えをはっきり述べる、相手の言うことに耳を傾ける、状況を的確に判断する、根気強く頑張る、人の気持ちを思いやる‥‥こうした社会的場面で必要となる能力を「社会的能力」と言います。大人になればなる程こうした能力が大事になることは誰もが実感することではないでしょうか。

 しかし現代の子どもたちのもっとも弱い面もこの社会的能力なのです。一人ひとりの子どもは可愛くそれなりの魅力をもっていても「どうも、あの子をリーダーにするには」「簡単なルールなのに守れない」「自己主張が強く仲間から相手にされない」「頭は良いが人望がない」といった問題が生じます。その結果「いいものを持っていても活かせない」という残念な状態に甘んじている子ども(大人も)が沢山いるはずです。

 こうした問題の解決方法として近年「ソーシャル・スキル・トレーニング(SST)」が様々な機関で行われるようになりました。これは文字通り社会的能力をその子どもの問題に則したプログラムを作り訓練して学ばせるものです。ところが実際に訓練を行ってみると同じプログラムで行っても、個人によって結果がだいぶ異なることが明らかになってきました。

 何の違いが結果をわけるのでしょうか。それはその子が蓄積している心のエネルギー量なのです。いくら社会的行動のやり方を学んでも、心の中が寂しさや不満、不安で一杯であれば「それどころではない」気持ちになってしまうことでしょう。頭ではわかるけどやれない状態になってしまうのです。

 現代の子どもたちの社会的能力の弱さの背景に、心のエネルギー(情緒豊かなかかわり、愛情豊かなかかわり)の支えの〈薄さ〉があるのではないでしょうか。

執筆者:菅野純 1950(昭和25)年、宮城県仙台市生まれ。早稲田大学卒業後、同大学院修了。発達心理学・臨床心理学専攻。東京都八王子市教育センター教育相談員を経て、早稲田大学人間科学学術院教授を2015年3月まで務める。現在も、不登校、いじめ、非行など、さまざまな子供へのカウンセリングに加え、学校崩壊をはじめとする学校のコンサルテーションに取り組む。<心の基礎>教育を学ぶ会会長。著書は『武道──心を育む』(日本武道館出版)など多数。