禅林学園高等学校 小判繁樹校長に聞く 

2015/08/25

人間はしっかりとした教育環境の中に入れば、必ずその人本来の自分を取り戻すことができる

―今回は禅林学園高等学校の小判繁樹校長にお話を伺います。こちらは専門学校禅林学園の高等課程普通科がステップアップしたかたちで平成25年に開校されましたが、これまでにない特色のある学校です。まず、この禅林学園高等学校は通信制という理解でよろしいですか?
小判 はい。広域通信制課程、単位制、普通科です。その中に〝登校独修型〟と〝家庭独修型〟という二つの学習形態を用意しています。
―登校独修型というのは、いわゆる一般的な通学して学ぶスタイルのことですね。では家庭独修型というのは‥‥?
小判 本校があえて広域通信制を選択しましたのは、全国の道院やスポーツ少年団にいる拳士で、道場に通いながら、働きながら自宅で自学自習をして高等学校の卒業資格を取得しようとする人たちへの支援が大きな目的です。今、道場には出ていけるのだけど学校に行けない子供が増加しています。そういう子供たちをどうにかしてあげたい。このことは時代状況は異なるものの、少林寺拳法創始者、宗道臣先生の教育への情熱と深い願いでもあります。本校の「修身コース」(少林寺拳法コース)に入れば、道場での修練内容をレポートにすることができます。 
―生徒は道場で学んだことをレポートとして提出するわけですか。
小判 そうです。道場には技術や教えなどレポートを書く材料がたくさんあるでしょう。まさに道場が学びやになるわけですよ。
―確かに道場で学ぶことは多岐にわたっていますね。教えはもちろんのこと、拳技にしてもそこに物理学を見いだすこともできれば、心理学、生理学を学ぶこともできます。
小判 そうでしょう。学ぶ気になれば、道場の中には、生きるための題材やヒントはいくらでも見つけることができます。本学が「独修」という言葉を用いているのは、そこなんです。自ら学ぶのが学問本来のあり方であるならば、その姿勢を育むことを教育方針の第一にしようじゃないか、と。
 同じような人間が集まって同じようなことをするのが今の学校でしょう。入学試験も点数で切って同じような頭の人間が集まって同じことをする。でもね、人間誰もが持ち味を持っていて、それは人それぞれに違うわけですよね。しかし、自分の大切な持ち味を画一的集団教育で潰されているケースって多いと思うんです。従来の学校だと評価基準は学力しかない。あるいは課外活動、例えば部活の成績とか、それくらいでしょう。学問やスポーツ以外にも、さまざまな持ち味があるはずですよ。でも、それは今の学校ではなかなか評価されない。ですから、本学では学力だけではなく、広く生徒の持ち味を見いだしてあげたいと考えているのです。
―家庭独修型の生徒は日頃はどのように学習を進めていくのですか。
小判 家庭独修型で学んでいる生徒は自分のペースで学習計画を立てます。それに基づいて、各教科、各科目ごとにレポート作成に取り組みます。それぞれのレポートは本校に提出され、教員が添削します。独修(自学自習)ですから得意な教科、好きな教科をより深めて学ぶこともできますし、苦手な教科に時間をかけじっくり取り組むことも可能なのです。そして本校の場合は年に2回‥‥8月と1、2月に各5日間、原則、寮で集団生活をしながら本校で担当教員から指導を受けます。そして、単位修得試験が行われます。これをスクーリングといいます。
―今、何人の生徒さんがおられますか?
小判 全部で66人です。内訳は、登校独修型が40人、家庭独修型が26人です。まだまだ少ないです。定員は300人ですから。将来は生徒数が増え、全国から代わる代わる多度津を訪れて、ふだんから本部の構内が若い生徒たちで賑(にぎ)わうようにしたいですね。それが私の夢です。
―登校独修型の生徒さんが増えてきているそうですね。
小判 地元の中学校からの入学者が増えています。金剛禅教育の成果が地元の人たちに伝わっているのは確かです。それと、全国各地の道場から少林寺拳法大好き少年が駆け参じてくれています。今年はインターハイ(全国高等学校総合体育大会)にデビューします。
―地元からの入学者はどんな若者ですか?
小判 色取り取りの若者が入学してきます。将来性のある原石たちです。開祖の直弟子だった先生方の中にもかつてはやんちゃ坊主がいたわけでしょう。それを開祖は少林寺拳法を通じて、社会の指導者として立派に育て上げた。そうありたいと思っています。
 先ほど、人それぞれに持ち味が違うというお話をしましたよね。面白いことに、どんなやんちゃな子であっても、本校へ来る生徒はみんなすばらしい持ち味を持っているのです。そこに教員が気が付いて、生徒自身に自分の持ち味を自覚させ胸を張って人生を送ってもらえたらこんなに喜ばしいことはないです。
―もう一つ大きな特色として、《縦割りホームルーム》というのがあるそうですね。 
小判 普通の学校は学年別、コース別のクラス分けでしょうが、本校は学年、コース、そして登校独修型/家庭独修型の生徒も、みんなごっちゃ混ぜにして雑居ビルのようなクラスを編成して、それをホームルームにしているのです。
 このことによって先輩後輩といった上下の関係、同輩といった横の関係、いろんな考え方、感じ方を持った人たちとの人間関係の中で、異質なものへの理解と寛容が深まりその結果、多様な観点から人間を評価できる能力を育成することが可能となります。まぁ担任は大変です。生徒それぞれの状況を細かく把握して、面倒を見ないといけないですからね。
―そうやって担任の先生が見守ってくれるから、子供たちも心を開いて、学ぶことができるのかもしれませんね。
小判 見守る姿勢がないとだめでしょうね。それには辛抱がいります。教員が辛抱してやらないと、生徒が気付く前にへたってしまうケースもありますからね。
 私が教員になったとき、ある先生の副担任になったんです。その先生は白髪のお年寄りで、見るからに弱々しい人でした。それが不思議なことに、どんな荒っぽい生徒でもその先生の言うことだけは素直に聞くんです‥‥なぜそうなのか、そのころは分かりませんでしたが、ようやく長年の私の疑問が解けました。その先生は生徒をものすごく大事にしていた。その大事にされている気持ちが生徒をそうさせたのではないか・・・と今では思っています。そういう体験がありますから、教員が心から生徒のことを思って行動する気持ちがないと、いくら表面を取り繕っても生徒に伝わらないと実感しています。やはり教員も、油断していたら我が出てきて、生徒を押さえつけたり、自分勝手なことを言ったりしてしまいますよね。そういうことを肝に銘じながら、血の通った心の教育、人が人を育てる師弟一体の教育を進めてゆきたいと思っています。 (2015年7月16日 禅林学園高等学校にて)

小判繁樹氏プロフィール
昭和24年岡山県生まれ。昭和48年3月 大阪芸術大学 芸術学部文芸学科卒業。同大学少林寺拳法部を設立。昭和48年4月 岡山県私立関西高校赴任(国語科教諭)。同校少林寺拳法部を設立。

平成13年4月 日本少林寺武道専門学校 教頭、平成23年4月 専門学校禅林学園 校長を歴任し、平成25年4月禅林学園高等学校 校長に就任。少林寺拳法七段。

真を求め〜小判先生写真