第1回 しさくは きみの ために ある

2016/04/28

 沈黙と暗黒の世界にあって、ひたむきにたくましく美しく生きる人が居ます。福島 智 東京大学教授です。3歳で右目を、9歳で左目を失明。14歳で右耳を18歳で左耳を失聴し、光と音を完全に失ったにも関わらず、「指点字」という他者とのコミュニケーション手段を開発・工夫し、バリアフリーの世界的研究者として活躍しています。

 私も東京大学時代に共に活動したことから親しい間柄ですが、関西出身でジョークが得意な明朗闊達な好人物です。

 全盲ろうの状態になって失意のどん底にあった時、一人の友人が彼の手のひらに指先で「しさく(思索)は きみ(君)の ために ある」と書いてくれました。その言葉に新たな勇気を与えられ、以後「言葉と思索」の世界を力強く進むことになったと、著書『ぼくの命は言葉とともにある』に示されています。

 障害のある人は、「障害があるから○○ができない」ととらえられがちですが、実は「障害があるから障害のない人に比べて、より大きな能力やより鋭い感性を有している」ことの方が多いのです。

 少林寺拳法の世界にも、障害のある人が、より多く参加すればするほど、少林寺拳法の世界はより広がり、深まり、大きくなるのでしょう。一人ひとりの障害のある拳士や健康プログラム参加者の立ち居ふるまいや言葉と考えなどから、真摯に学ぶ姿勢が大切でしょう。

執筆者:武藤芳照 学校法人 日本体育大学 日体大総合研究所所長、日本体育大学保健医療学部教授、東京大学総長顧問/名誉教授。1950(昭和25)年、愛知県生まれ。75年、名古屋大学医学部卒業。80年、名古屋大学大学院医学研究科修了。93(平成5)年、東京大学教育学部身体教育学講座教授。95年、東京大学教育学研究科身体教育学講座教授。2009年、教育学研究科長・教育学部長。11年、東京大学理事・副学長ならびに政策ビジョン研究センター教授。ロサンゼルス、ソウル、バルセロナ五輪の水泳チームドクター。日本転倒予防学会理事長。

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