第1回 視れども見えず

2015/04/27

 「百聞は一見にしかず」と言います。言葉を尽くして何度も説明するよりも、実際に姿、形、動き、絵や図表などで示したり表現した方がよくわかるという意味です。

 人間は、まわりの様々な情報の約80%は視覚、すなわち目で見ることにより得ているとされています。
 したがって、指導者は、指導の対象となっている受講生の目に、自分の姿・形・動きがどのように映っているかを常に意識していることが大切です。「こうした姿勢や動作を習得してもらうには、どう見せたら良いか」などの指導上の工夫や配慮が必要です。
 一方、指導中の受講生の姿勢・動作はもちろん、顔の表情、ちょっとしたしぐさ、目の動きにも注意することが求められます。しっかりそれらを見ることによって、「気づく力」と「見守る目」が養われ、指導の質の向上と共に、安全管理・事故防止の資質・能力が向上するはずです。
 「心 ここにあらざれば 視れども 見えず」と言われますが、ただ見るだけではなく、しっかり意識してみる習慣を持つことが大切です。
 あわせて、金子 みすずの詩「星とたんぽぽ」に表現されているように、海の小石、昼の星やたんぽぽの根のように「見えぬけれどもある」ものにも気を配り、受講生の心、気持ち、感情の動きも見ることができる指導者を目指しましょう。「目は心の窓」なのですから。

執筆者:武藤芳照 学校法人 日本体育大学 日体大総合研究所所長、日本体育大学保健医療学部教授、東京大学総長顧問/名誉教授。1950(昭和25)年、愛知県生まれ。75年、名古屋大学医学部卒業。80年、名古屋大学大学院医学研究科修了。93(平成5)年、東京大学教育学部身体教育学講座教授。95年、東京大学教育学研究科身体教育学講座教授。2009年、教育学研究科長・教育学部長。11年、東京大学理事・副学長ならびに政策ビジョン研究センター教授。ロサンゼルス、ソウル、バルセロナ五輪の水泳チームドクター。