第3回 ユーモアはヒューマン

2015/08/25

少林寺拳法をはじめ武道の指導者・達人については、厳しい顔の表情と指導ぶりが、一般の人々の認識でしょう。実際には、とても心優しく、よく気が付き、繊細な面も持ち合わせている指導者も少なくないのですが。
 コース制の参加者の多くは、指導者の個々の参加者に即した適切な指導を望んでいます。時には厳しい指導ぶりも必要ですが、大切なことはユーモアのセンスです。
 技術や体力の向上のために、ある程度の厳しさや負荷、努力は必要です。それらを促す指導者の言葉に、ある程度の厳しさもあってしかるべきでしょう。それに加えてユーモアを感じさせる一言やエピソードなどが組み入れられていると、参加者は心とからだの緊張を解き、指導の言葉をより深く理解するとともに、何よりも、「また、次もこの教室に来たい!」という思いを強くさせます。
 「笑う門には福来る」を医学的に実証した研究によれば、笑うことにより、からだの痛みは和らぎ、免疫細胞の活性が高まり、炎症物質の活性が低下することが示されています。思わず笑顔になったり、笑い声を出したりする雰囲気は、参加者の心を和ませ、健康づくりにも結び付くのです。
 ユーモア(humor)の言葉は、ヒューマン(human)の言葉と近接しています。「ユーモアのない教師は児童に接すべきでない」(北川民次)。とまで言われます。ユーモアはその指導者・教師の人間性の大きさと深さを表現しているといってもよいでしょう。

執筆者:武藤芳照 学校法人 日本体育大学 日体大総合研究所所長、日本体育大学保健医療学部教授、東京大学名誉教授。1950(昭和25)年、愛知県生まれ。75年、名古屋大学医学部卒業。80年、名古屋大学大学院医学研究科修了。93年、東京大学教育学部身体教育学講座教授。95年、東京大学教育学研究科身体教育学講座教授。2009年、教育学研究科長・教育学部長。11年、東京大学理事・副学長ならびに政策ビジョン研究センター教授。ロサンゼルス、ソウル、バルセロナ五輪の水泳チームドクター。