第4回 感性を磨く

2016/10/27

 教師、医師、弁護士、理学療法士、保健師、看護師、薬剤師、健康運動指導士、公認会計士など、末尾に「し(師・士)」が付く職種、資格の専門家が、さまざまな分野・領域で活躍しています。

 少林寺拳法では、「拳士」がいてその指導者がいます。指導者には、数ある「し」の付く専門家同様の資質・能力が求められているといってもよいでしょう。

 それは、第1に理論、第2に経験、第3に感性です。正しい指導方法・内容を守るという意味での「理論」。うまくできた成功の経験よりもうまくいかなかった、失敗した、反省した、挫折した、ヒヤリ・ハットしたという負の経験を適切な指導方法・内容に活かすという意味の「経験」。一人ひとりの受講生の姿勢、しぐさ、表情、動きの変化、声の様子などから、その日そのときの心身の状態を察知できるという「感性」。加えて、このような指導を続けなければケガや事故を来たすかもしれないというリスク(危機)を察知することのできる「リスク感性」。さらには突然発生したケガ・事故、地震などの自然災害といったクライシス(危難)に迅速・適切に対応できる「クライシス感性」。

 これらをさまざまな機会と場により鍛え、磨く努力を積み重ねて、初めて現場での指導・教育に自信を持つことができるとともに、受講生も安心かつ気持ちよく少林寺拳法の健康プログラムに勤しむことができるのでしょう。

 前述の三つの要素の内、最も重要なのは、「感性」でしょう。しかし、これは一朝一夕に磨かれるものではなく、理論を深め、経験を積み重ね、さまざまな「し」の付く専門家の言葉を学び、日々自然界の花鳥風月を愛でる営みによって、次第に備わっていくものでしょう。

 まわりにいる多彩な「し」の付く専門家と四季の姿が皆、我が師なのです。

執筆者:武藤芳照 学校法人 日本体育大学 日体大総合研究所所長、日本体育大学保健医療学部教授、東京大学総長顧問/名誉教授。1950(昭和25)年、愛知県生まれ。75年、名古屋大学医学部卒業。80年、名古屋大学大学院医学研究科修了。93(平成5)年、東京大学教育学部身体教育学講座教授。95年、東京大学教育学研究科身体教育学講座教授。2009年、教育学研究科長・教育学部長。11年、東京大学理事・副学長ならびに政策ビジョン研究センター教授。ロサンゼルス、ソウル、バルセロナ五輪の水泳チームドクター。日本転倒予防学会理事長。

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