第5回 深い知恵と枯れた技

2015/12/24

高齢者ドライバーによる重大な交通事故が後をたちません。高速道路の逆走、アクセルとブレーキを踏み違えて暴走し、店や歩道に突入して死傷者を出す。駐車場などでのバック時に人と衝突などの事故が全国で起きています。

 高齢者ドライバーの事故防止のため、免許更新する際に70歳以上は高齢者講習を行うほか、75歳以上には認知機能検査を課しています。さらに2015年6月の改正道路交通法では、検査で「認知症のおそれがある」と指摘され、医師に認知症と診断されると免許は取り消し、停止になるなど、対応は一層厳格化されました。

 スポーツの世界でも少林寺拳法をはじめとする武道の世界でも、高齢者の参加は益々増加するのは間違いないでしょう。それ自体は大変喜ばしいことですが、どんなに若い頃、体力・運動能力に優れていたと称する高齢者であっても、年齢に伴う運動機能・知覚機能、高次脳機能(判断・思考力等)は衰えているものです。「できると思っていること」と、「実際にできること」とのギャップが大きいのが特徴です。また、同じ年齢でも、できることの個人差が大きいのも高齢者の特徴です。

 高齢者は、いわば「人生の達人」です。達人は達人らしく己の年齢と力を知り、少林寺拳法の活動も、「深い知恵」と「枯れた技」が楽しく続けるコツであり、事故防止の極意でしょう。

 武道の一つである少林寺拳法では、高齢者が様々なケガや重大事故を起こすリスクは、常にあるものです。高齢者自身が、己のことを知り、永く少林寺拳法を楽しく続けられ、事故を防ぐように、指導者がさり気なく工夫・助言することが求められています。

執筆者:武藤芳照 学校法人 日本体育大学 日体大総合研究所所長、日本体育大学保健医療学部教授、東京大学総長顧問/名誉教授。1950(昭和25)年、愛知県生まれ。75年、名古屋大学医学部卒業。80年、名古屋大学大学院医学研究科修了。93(平成5)年、東京大学教育学部身体教育学講座教授。95年、東京大学教育学研究科身体教育学講座教授。2009年、教育学研究科長・教育学部長。11年、東京大学理事・副学長ならびに政策ビジョン研究センター教授。ロサンゼルス、ソウル、バルセロナ五輪の水泳チームドクター。

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