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vol.34 覚悟とは

2014/06/01

開祖は、道院長としての心構えを、道院長講習会の度に呼びかけられ、叱咤激励をされてこられた。我々多くの道院長は、その言葉に充電され、頭の中では理解をし、よし頑張らねばとそれぞれの地域に帰って活動をしてきた。しかし、いつの間にか日常に流され、「マアそのうちに宝くじでも当たれば、道場の一つや二つすぐに建てるよ……」的な、現実離れした思いだけで、一歩も踏み出さないまま、さて何十年が過ぎたろうか?

幸いに私の場合は、妻に助けられ、2002年に気の遠くなるようなローンを組んで中古住宅を購入し、一階駐車場を改造し、道院として活動の拠点とすることができた。

そのころは、事あるごとに妻に、「借り物でない自分の道院を持ちたい」と、枕詞のように言っていた。それが効をなしたのか、妻も少しずつその気になり、新聞の折り込みチラシを物色しては不動産屋に電話し、希望物件に合うような建物を紹介してもらっていた。が、なかなか条件には合わず、不動産屋から次々と紹介の案内が来るようになってはいたものの、だんだん現実から離れていくような感じがしてきて、やはり無理かと諦めかけていた。

そんなある日、監督をしていた大学の春季合宿に参加し、学生たちと汗を流していた夜、合宿場まではめったに連絡をしない妻から、電話を受けた。「合宿が済み、帰ってからでも、と思っていたのですが……」。不動産屋から連絡が入り、ちょうど条件に合う物件が見つかったので、奥さんだけでもよいから見に来てくださいと言われ一人で見に行ったとのこと。「どうする?」と聞かれ、値段も何も聞かずに、直感で「すぐに手付けをしてくれ」と物件も確認せず家内に伝えると、「そういうだろうと思っていました。不動産屋さんには押さえておくように伝えます」との返事が返ってきた。合宿から帰りワクワクしながら物件を見に行くと、誠実な担当の方に安心し、物件にも満足し、すぐに契約に入った。

自分の収入と値段を比べれば、とても手が出る物件ではないが、迷うこともなく決断の後押しをしてくれたのは妻であり、その後の家計をやりくりしてくれているのも妻である(今でも頭が上がらない)。

それから12年間、少しずつ活用してきて、今では大阪白鷺道院として、全ての儀式、行事、易筋行を18坪の道院で押し合い圧し合いしながら、楽しく充実した活動をしている。

ここ数年「組織機構改革」が宗由貴総裁の不退転の決意、覚悟の下大きく動き出し、道院長一人ひとりが、自分の志を確かめながら家族、門下生、有縁の人たちを巻き込み、本気で取り組んでいる。この機構改革を成し遂げなければ、宗教法人金剛禅総本山少林寺は足元から崩れていく。皆、頭では理解していることだがせっぱ詰まらなければ本気で取り組まない。覚悟を決め、前に踏み出す勇気はなかなかできない。「覚悟」という字は「さとる」を二つ重ねて読ませている。人生を明らかにし、一歩踏み出す覚悟。そして、一生のうち、人生を左右するほどの決断、皆、頭では分かっていること。

さて私の近況は、いまだに上がらぬ頭の上から、妻は「あなたの道楽にこの家を買ったのですから、しっかり働いてローンを完済してくださいね」……ごもっともです。小遣いが少ないという愚痴を聞き流されつつ少し覚悟が甘かったかも、の自己反省。でも、今日も下の道院で拳士たちの声が聞こえる。用事を済ませて、道衣に着替えて、さあ鎮魂行。
(大阪白鷺道院 道院長 佐々木 正)

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