身近にある「発達障害」

2017/04/26

 黒板に書かれた文字をノートに写すことはできるが、板書なしに語られたことをノートにとることができないーいまこうした大学生の学習上の問題がよく話題になります。教師が語る言葉から、大事な点や検討すべき点を抽出する能力がきわめて低い学生がいるのです。そのため、大学教育は以前に比べると圧倒的に「親切」になっているはずです。中学や高校の授業のように要点を細かく板書する、要点をまとめたプリントを配布する、小テストをする、パワーポイントやビデオなどを駆使して、できるだけ「見える化」して理解を助ける、など。

 人の話を聞いて理解し、自分が何をすべきかを判断して実行する力が若者全体に弱くなっているのかもしれません。まして「言われないことでも察して行なう」といったいわゆる「気ばたらき力」となるとかなり少数の若者しか身についていないのではないでしょうか。

 こうした抽出能力の欠如や「気ばたらき力」の欠如は、勉強よりも、お手本やマニュアルのない社会的行動に顕著にあらわれます。自主練習だと何をしてよいかわからない。相手が傷つくことを平気で言ったり、なれなれしい失礼な態度をとったりする。状況をうまく読めず、被害的に受け取る。仲間で話し合ったり協力したりするのが苦手で一人になりたがる、などです

 いま、教育や医学の世界では「発達障害」というテーマがよく取り上げられるようになりました。これまでその人の「性格」「くせ」ととらえられ、「変わった人」などと言われてきた問題のなかに、脳機能障害が原因となる場合があるのです。少林寺拳法の稽古場面でも「指導の言葉」が通じ難い子どもがいるかもしれません。お父さんやお母さんの中にも、わが子の発達の偏りや、こだわりの強さ、パニック行動などに悩まれている方もいるかもしれません。

 これからの連載、そうした発達障害とその成長の応援の仕方をテーマにしていきたいと思います。

執筆者:菅野純 1950(昭和25)年、宮城県仙台市生まれ。早稲田大学卒業後、同大学院修了。発達心理学・臨床心理学専攻。東京都八王子市教育センター教育相談員を経て、早稲田大学人間科学学術院教授を2015年3月まで務める。現在も、不登校、いじめ、非行など、さまざまな子供へのカウンセリングに加え、学校崩壊をはじめとする学校のコンサルテーションに取り組む。<心の基礎>教育を学ぶ会会長。著書は『武道──心を育む』(日本武道館出版)など多数。