vol.10 道院

2010/06/01

aun_m_vol10「道院」という名称は、武道の道場と仏教の寺院とを合成した文字で、道院としたものだと、私は思っていた。『教範』をよく読んでいなかったのである。

『教範』には中国の道院との違いが2ページにわたって記述されており、『50周年史』にも道院の満州総院で陳先生に小手巻返らしい技で開祖が投げ飛ばされたエピソードが紹介されており、道院という名称の由来が確認できる。そして、その道院の外郭団体として紅卍字会が存在し、戦時や天災時には難民を救い、平時には孤児院や学校を経営するなどの救貧事業を行っていた。道院が内修を行うのに対して、紅卍字会は外修を行う団体で、両者は唇歯輔車の関係にあった。

開祖はこの道院、紅卍字会にちなんで、これまでの武道のイメージとはまるで違う宗教的雰囲気を持った「道院」と宗教団体「黄卍教団」を1948(昭和23)年12月に設立した。

開祖は少林寺拳法を組織化する際、中国の幇のように社会的地位が異なる人たちも横のつながりを持って助け合うような団体にも目を向けている。日本人の持つ縦のつながりに加えて、横のつながりを併せ持った、縦横、織物のような人間関係を持つ団体にしたかったのだ。天地会、三合会、竜華会、などの幇が中国に存在し、それが少林寺拳法の各種拳名に取り入れられていることを鑑みても、開祖の幇に対する、そして道院に対する思い入れが窺える。

敗戦後の焦土と化した日本で、正義感を持った自信と勇気と行動力のある人を育てる以外に日本の復興はないと確信した開祖は、その人を育てるための「行」として、少林寺拳法を生み出した。

「道院」という名称には少林寺拳法を、イザというときに助け合える正義の団体にしたいという開祖の熱い願いが込められている。

(文/東山忠裕)