遠くから注がれる《心のエネルギー》

2017/01/30

 国際宇宙ステーションに勤務する宇宙飛行士の選考に心理学者として加わったことがあります。候補者の条件は「自然科学系大卒以上」「自然科学分野の研究・開発実務経験三年以上」「十分な英語能力・水泳などの体力」などに加え、心理的特性として協調性や適応性、意志力、情緒安定性などが求められる極めてハードルの高いものでした。面接で出会う候補者は例外なく好青年で、一様に「子供のころから宇宙飛行士になるのが夢だった」と語っていたのが印象的でした。

 心理学者として私は次のような視点で面接しました。「あなたにとって、両親、兄弟、恩師、友人は、今どのように存在しているか?」―狭い宇宙ステーションの中では時に無理解や誤解に遭ったり、孤立することもあるでしょう。そんなとき、「嫌だから帰る」という訳にはいきません。辛抱強く説明する、誤解を解消する対応方法を工夫する、そして時には孤立に耐えることも必要なのです。

 そんなとき、遠い地球にいる両親や兄弟、友人たちとつながっていたらその人は孤独に陥らずに済むはずです。たとえ両親がこの世に生きていなくと、イメージの中でつながっていれば、私たちはイメージのパイプを通して送られてくる心のエネルギーを頼りに頑張れるはずなのです。

 先祖を祭る仏壇に手を合わせたり、年任に何回かお墓参りをしたり、成長モデルとなる先輩についての話を聞いたり、私たちを包む自然に感謝したりするとき、私たちは遠くから見守る者の存在を感じ、心のエネルギーを一身に頂いているのだと思います。

 指導者は子供たちに、それぞれの背中を支えている大勢の人々の「手」について、教えてあげてはいかがでしょうか。試合で緊張しているとき、何度練習しても上達せず悔し涙が止まらないとき、たくさんの人々の応援する手が君の背中を支えているのだ、と。

 

執筆者:菅野純 1950(昭和25)年、宮城県仙台市生まれ。早稲田大学卒業後、同大学院修了。発達心理学・臨床心理学専攻。東京都八王子市教育センター教育相談員を経て、早稲田大学人間科学学術院教授を2015年3月まで務める。現在も、不登校、いじめ、非行など、さまざまな子供へのカウンセリングに加え、学校崩壊をはじめとする学校のコンサルテーションに取り組む。<心の基礎>教育を学ぶ会会長。著書は『武道──心を育む』(日本武道館出版)など多数。