2019年冬号 会長室から~一年を振り返って~

2020/01/17

2019冬号会長室から(PDF原稿はこちらをクリック)

会長室から 〜一年を振り返って〜 担当 大原一純

◆最近嬉しかったことを教えてください。 ここ数年、不祥事が続いたスポーツ界が明るくなった『ラグビーワールドカップ2019』もその一つでした。「ピピー!」と笛が鳴ると、強豪スコットランドの1次リーグ敗退が決まり、肩を落としうつ向きながら退場しようとする選手たち。すかさず日本チームの選手が、2列に分かれ花道を作り、拍手で敗戦チームの健闘を称えました。すると今度は、スコットランドの選手が、勝者日本選手の退場の花道を作り、勝者日本チームを称えてくれました。試合が終われば、敵味方がないという、ラグビーのノーサイドの精神に誰もが感動し、私も嬉しく感じました。大学の少林寺拳法部OBOG会も、半世紀にわたりこの精神を大切にしています。出身大学を問わず、非常に良い関係が出来上がっています。会えば、当時の大会の様子を思い起こし興奮もしますが、いつも少林寺拳法で出会った仲間と楽しんでいます。このように、武道やスポーツは、その存在意義を再確認し、人々がより豊かに過ごるよう、社会に貢献できるようにしてゆかねばなりません。昨年10月には、一財連盟は、少林寺拳法グループと連携して、公益活動の一環として、健康増進をテーマにシャイニングフェスタを開催しました。初めての試みでしたので、知名度が低くどうなることかと思っていましたが、少林寺拳法健康クラブの半数のクラブリーダー、地元や近県、全国より指導者、そして地元の方々、150名が参加してくださり、皆様の笑顔を見ることができました。来年は、秋の達磨祭で同時開催されます。これからも非会員の方々にも少林寺拳法がお役立ちできればと思います。

◆最近驚いたことはありますか?

 文部科学省は、2020年度の新学習指導要領にて、今後の社会で必要な力を、「①知識・技能」を土台とした「②思考力・判断力・現力」、そして「③学びに向かう力・人間性等」の三つを育てると定義しました。新学習指導要領は、この「三本柱」を踏まえ、自ら問題を発見し、主体的に考え、未知の課題に挑み、他人と協力して解決できる力の育成を目指すとしています。70年も前に開祖宗道臣先が説いた少林寺拳法が理想とする人間像は以下の通りです。

〔少林寺拳法の目指す人間像〕

 ①自己の可能性を信じる生き方ができる人間

 ②主体性をもった生き方のできる人間

 ③他人の幸せを考えて行動できる人間

 ④自信と勇気と慈悲心をもって行動できる人間

 ⑤連帯し協力し合う生き方ができる人間

 あらためて、開祖の時代の先を読む洞察力と言いますか、不変の真理を、よくあの戦後の混乱期に社会に呼びかけたなと改めて驚かされました。そして、宗由貴前少林寺拳法グループ代表が、呼びかけるコンプライアンスや、公益活動の促進なども、常に時代に即応したものであり、一財連盟も社会と遊離しないよう、しっかりと活動を展開してゆきたいと思います。

◆最近悲しかったことはありますか? まずは、思いがけない台風や事件・事故などでお亡くなりになられた方々にご冥福をお祈り申し上げます。また、理不尽な虐めやハラスメントなどによって、精神障害を被る人や自殺者も後を絶ちません。自然災害や人災の恐ろしさを繰り返し見聞するたびに、納得いかない思いでいっぱいです。人の命や尊厳は、決して誰にも犯されるものであってはなりません。 命の危機に遭遇されていない人や、死ということがまだ遠い存在だと考える人には、「命の尊さ」を実感できないのかもしれません。また、愛情に乏しく、自身が満たされない状況の中で他人への思いやりや尊厳について考えることが出来ない人もます。そのような中で、子供達の自殺予防をするために大学教授らが開発したプログラムを授業に取り入れる学校が増えてきました。悩んだときに人に相談することの大切さや、相談された時の対応方法などをつかむことを目的としているそうです。少林寺拳法においては、自分を律したり、鼓舞したり、問題課題を乗り越えるための不撓不屈の精神も学び、目の前の課題を人と協力して解決する力を養っています。どうか、人が人の心身を傷つけることのないよう、災害にあたっては周囲の人びとが協力できるような社会であることを強く望みます。

◆2019年度の重点課題「指導技術の向上」をどのように総括されていますか?

 一財連盟会員の約半数が、小中学生であり、人づくりの指導にあたる支部長や幹部拳士の皆さんが悩んでおられることを優先課題とし、拳士、保護者、学生、支部長、監督など8,000名を超えるアンケートやご意見も参考に以下に取り組みました。発達障がいの特性を持つ拳士、運動機能の低下や怪我・体調不調を訴える拳士、体罰・ハラスメントで苦しむ拳士や保護者、入会・継続率の低下で困る支部長、これらの総合的な対応に悩む指導者と社会状況を捉え、全ての研修会・講習会のセッションでこれらを取り扱いました。一昨年は「指導者の魅力づくり」、昨年は「活気ある支部づくり」が研修会テーマでした。本年度は、指導技術の向上の一環として「コーチング」について、日本スポーツ協会のコーチ養成講師の資格を持つ一財連盟職員が、研修会、講習会で取り扱いました。次に、発育発達理論にもとづく「体幹トレーニング」と、コーチング理論にもとづく「ペップトーク」を、プロの部外講師を招いて研修し、好評を頂きました。また、近年社会問題となっている暴力・体罰・ハラスメント・禁止薬物使用の問題については、コンプライアンス(法令順守)やガバナンス(組織統治)の管理資格を持つ一財連盟職員より研修を行いました。特に、スポーツ庁や日本スポーツ協会より、「体罰やハラスメントなどの根絶」のために「コーチングの普及」が強く呼びかけられており、受講者アンケートでも、次年度も引き続き同様のセッションも行って欲しいという要望が寄せられています。次年度は、少林寺拳法の目指す人づくり像を念頭に、若手・女性指導員の養成、広報活動、技術・学科指導の向上、立ち合い評価法の普及などにも力を入れてゆく計画です。