Vol.24 正義の戦争って何だ。そんなもん、あるわけないだろう!
2015/12/15
「先生、正義って何ですか?」。学生の手が挙がりました。大学少林寺拳法部の本部合宿で、宗道臣の講話が終わり、何か質問はないかと問いかけたときのことです。そのときの講話は、1973(昭和48)年の“石油ショック”を題材に、石油の便乗値上げに走る悪徳商法や、トイレットペーパー買いだめのパニックを現出した状況を見て、我々はどう考え、どう行動すべきか、というものでした。それは1974(昭和49)年春の合宿でした。
学生の質問を聞きながら、私はハッとしました。少林寺拳法の「信条」の第三に、「我等は、正義を愛し、人道を重んじ、礼儀を正し、平和を守る真の勇者たることを期す」とあり、修行のたびに唱え続け、何となく分かっているつもりでいたのに、さて改まって聞かれると、“♪平和(幸せ)って何だっけ~、何だっけ~♪”状態なんだと思い知りました。
「君、今の中東戦争(第4次オイルショックを誘発した)ね、イスラエルもパレスチナも、どっちも『これは自分たちにとって正義の戦争だ』と言ってるだろう。で、君はどっちの方が正義だと思うかね」「……分かりません」「分からんだろうな。実はわしも、よう分からん……。数千年もの歴史の糸が絡まり合っていて、どっちの言い分にもそれなりの理があるんだからな……。そうだ、この際みんなにも言っておく。古来、私ら人間どもは無数の戦争を繰り返してきたが、そのほとんどすべて、“正義”や“大義”や“聖戦”の旗を掲げておった。だがな、正義の戦争って何だ。そんなもん、あるわけないだろう!。それにだ、私は、戦争に限らず、軽々に正義を言い立てる輩を、うさんくさく、危険でさえあると思っている」
「ついでだから言っておく」。もう、とっくに昼は過ぎていましたが、ここからがいつもの宗道臣の真骨頂でした。
「正義の反対は、不正だね。不正なら分かるだろう。私に言わせれば、“不正とは、個人または少数のグループが、自分たちの利益のためだけに他の多くの人々を殺傷したり、奪ったり、抑圧し差別すること”をいうんです。そして、そんな不正に立ち向かおうとする心を、私は“正義感”と言っているんです。信条で『正義を愛する』と言わせてるのは『不正をしない』と誓うだけでなく、不正を憎み、不正を許さない“正義感”という感性を養ってほしいからなんです。だから、私も君たちも、少林寺拳法を行ずるみんなにとって最低のモラルは、“殺すな・奪うな・差別するな”なんだと肝に銘じてほしい」
宗道臣の「ついでに……」という話は、このあともしばらく続きましたが、それも含めて、私にはこの日の講話が、忘れがたい「法話」の一つになっています。

1930(昭和5)年、兵庫県神戸市に生まれる。大谷大学文学部卒業、姫路獨協大学大学院修士課程修了。16年間の中学・高校教員生活を経て、69年より 81年まで、金剛禅総本山少林寺、社団法人日本少林寺拳法連盟、日本少林寺武道専門学校の各事務局長を歴任。金剛禅総本山少林寺元代表。現在、一般社団法 人SHORINJI KEMPO UNITY顧問。194期・大法師・大範士・九段。