第5回 KYTと眼力

2017/01/01

 TPPなどの英語の略称がよく用いられます。いったい何の略でどんな意味だったかをつい忘れてしまいがちです。

 では、KYTはご存知でしょうか?実は、これは英語の略称ではありません。K(危険)Y(予知)T(トレーニング/訓練)の頭文字を並べたものです。元々は、労働災害の防止のための訓練法・教育法として作られたものですが、医療事故防止、学校事故防止などに幅広く応用されています。

 要は、ある場面や状況を想定して、どこに危険が潜んでいるかを皆で話し合い、具体的な対策を決めて行動目標を立て、一人ひとりが実践するという訓練です。

 一方、病院の外来や病棟で、患者さんの表情、しぐさ、動作・行動などを一瞥(いちべつ)して、その特徴の変化、異常などを瞬時に診断することを「一瞥診断(スナップ・ダイアグノーシス)」と呼び、医師・看護師らがその能力を身に付けることが求められます。KYTに相通ずるものがあります。

 少林寺拳法の健康プログラムの指導現場でも、このKYTを応用して、ある状況のイラストや写真、あるいは生の場面について、どこに事故を招く危険があるかを皆で話し合い、改善する努力・工夫も必要でしょう。参加者の服装や身に付けているもの、動作や床面、壁、天井などの建物・構造などに目を配る眼力(気づく力)を養うことができます。

 武道に限らず、様々なスポーツや芸術・文学などに接することも、感性を磨き、結果として、そうした眼力を養うことに結びつきます。もっとも、読書には漢字が読めないと困りますから、K(漢字)Y(読めない人)T(トレーニング)が必要かもしれません。

執筆者:武藤芳照 学校法人 日本体育大学 日体大総合研究所所長、日本体育大学保健医療学部教授、東京大学総長顧問/名誉教授。1950(昭和25)年、愛知県生まれ。75年、名古屋大学医学部卒業。80年、名古屋大学大学院医学研究科修了。93(平成5)年、東京大学教育学部身体教育学講座教授。95年、東京大学教育学研究科身体教育学講座教授。2009年、教育学研究科長・教育学部長。11年、東京大学理事・副学長ならびに政策ビジョン研究センター教授。ロサンゼルス、ソウル、バルセロナ五輪の水泳チームドクター。日本転倒予防学会理事長。

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