vol.49 埼玉本庄道院 道院長 石川 奈々恵

2016/11/01

道院長とは本当の幸せに気づくことのできる存在
埼玉本庄道院 道院長 石川奈々恵

育英メディカル専門学校 鍼灸学科 昼間部 卒業。
20歳から約10年間、プログラマー、DTPオペレーター、HP作成などコンピューター関連の仕事に従事。その後、数年間は出産、育児に専念し、育児の傍ら、在宅ワークでのHP作成、飲食店の接客業を行う。38歳の時に鍼灸専門学校に入学し、3年間学生となる。卒業後、石川鍼灸院を開業し、現在に至る。
1996年入門。2010年より埼玉本庄道院長となる。

埼玉本庄道院 道院長 石川奈々恵

―――道院長になろうと思ったきっかけは何でしょうか。
 前道院長が、体調不良により、道院長を続けられないということになり、その際に、様々な条件下で私しか道院長交代が出来ない状況でした。
 その時点で私には5歳の息子がおり、あまり育児を家族や親に頼めない状況でもありました。
 また、自分に道院長が務まるのか、自分などで大丈夫かなど、色々とかなり悩みもいたしました。
 しかし、今まで続いてきた道院が本庄から無くなるという状況にはしたくないという思いや、自分自身挑戦してみたいという気持ちもあり、決心をしました。

―――道院での指導方針や、指導法としての工夫を教えてください。
 まだまだ道院長として、自分の中で物足りない部分を正直感じており、試行錯誤の日々ですが、現在の自分の方針としては拳士1人1人の性格やレベルなどを、様々な角度から観察することにより、その人に最適な声かけや指導ができるようにしております。
 その場でできるようになれば良い、その場だけで理解できれば良いという考え方ではなく、将来その人がどのように成長していくか、先の事まで意識して考えるように努めながら指導をするようにしております。
 少年部に関しては、基本的にはあまり細かく物事を指示したり、厳しくしてはおりませんが、道場に入る時には必ず合掌礼をする、基本突きの前などには必ず全員結手構えをきちんと揃えてから、動きに入るなど、「これだけは絶対に守る」ということを幾つか決めて、それが全員守れない時には、次に進まないようにし、連帯責任を意識させることや、動と静のメリハリをつけるようにしています。
 学科や法話は、教本をベースにしておりますが、なるべく自分の言葉で分かりやすく伝えること、それと開祖の言葉は毎回必ず何か伝えるようにしています。

―――道院長になって出会った感動のエピソードをお聞かせください。
 考えれば色々と特別なエピソードも出てくるとは思いますが、特別な感動的なエピソードというよりも、道院長として自分が生きている、この一瞬一瞬がすべて大切な時間です。特に修練の時に拳士が整列している前で合掌礼をする瞬間、「今日も無事に修練ができる」、「この一体感を感じることができる」そんな風に思うと、いつも合掌礼をする瞬間に、拳士の皆様への感謝の気持ちと、感動の気持ちが沸き起こってまいります。
 日々色々なことに忙しく追われながら生活している中で、正直疲れることもあり、また悩んだりすることももちろんあるのですが、この道院での合掌礼の瞬間は、自分自身がとても良い意味で、またリセットさせられるというか、感謝の気持ちを改めて感じさせていただける、大変ありがたい瞬間でもあります。

―――道院長として、今後挑戦したいことや夢などを語ってください。
 道院長は一生修行者であると、私は本当に痛感しております。まずは、自ら辛いことや困難に逃げずに立ち向かい、拳士にはその自分の姿を見せ続けられるようにしていきたいです。
 指導させていただくことにより、自分自身も様々な学びや発見があり、共に成長させていただいているという謙虚な気持ちを持ち続けながら、これからも指導にあたらせていただきたいと思っております。
 「夢」という意味では、90歳くらいのおばあちゃんになっても、背筋がピンと伸びていて、優しい中にも厳しさと芯のあるおばあちゃんになり、20代位の筋骨隆々の若いお兄ちゃんに、笑顔で平然と「人間は一生修行だよ~」などと言いながら技をかけ、投げてみたいです。
 そして「あのおばあちゃん、優しいけどすごいよね~」とか言われるようになりたいです(笑)

―――個人として頑張っていることや目指していることを教えてください。
 20代の時に、西洋医学の薬の副作用で身体がかなり辛い状況になったり、色々と体調不良に悩まされたりした時期がありました。ところが、30代になって東洋医学的な治療を受けたことによりそれが劇的に改善し、身体が信じられない程に変わったという経験をいたしました。
 また、出産や育児を経験したことにより、自身の身体のことなど、女性としての自分にもっと向き合うようになりました。
 そして、自分が経験したことと同じように、心身の不調や病に苦しんでいる人の力になりたいと考え、38歳の時に鍼灸専門学校に入学し、学生、道院長、子育て、家庭の両立を何とかこなし、猛勉強をし、何とか本年3月に学校を卒業、資格も無事取得し、4月に鍼灸院を開業することができました。
 鍼灸の良い師にもめぐり合うことができ、また、東洋医学の世界、思想の奥の深さを知りました。それは金剛禅の教えにも深い所でつながっているように感じております。
 金剛禅の教えとともに、東洋医学、東洋思想をこれからもより深く学び、金剛禅の修行と同様、さらに努力を続けて鍼灸道を究め、1人でも多くの病に苦しむ人達のお力になりたいと心から思っております。

―――仕事や家庭(子育て)についてどの様に両立させているか教えてください。
 現在はお陰様で仕事も充実してきており、その他に道院、家事や育児もこなしておりますので、正直、気合や根性で乗り切っている面はあります(笑)
 時間をなるべく無駄にせず、色々なことを短時間でたくさん効率よくできるような工夫は常に考えております。なかなか思ったようにできない時も多々あるのですが・・・
 あと、子育てにおける工夫というより、自分が気をつけている点ですが、以前私の尊敬する方から、 「子供は手をかけずに目をかける」という言葉をお聞きしたのですが、本当に、子供は将来自立する事が大切なので、今から自分の事はなるべく自分で出来る人間になるような方向で子育てをしております。
 子供が自分で自分の事をやってくれれば、私も手がかからず楽なので(笑)

―――最後に将来道院長を目指す全国の拳士へ、ひと言エールをお願いします。
 私など、まだまだ未熟で、あまり偉そうな事は言えませんが、道院長は常に修行者。これは本当に忘れてはいけないことだと思います。修行者という意味では、男性も女性も関係ありません。
 楽に適当に生きる人生よりも、常に努力し修行を続け、そして他人の役に立てる、そういったことで自身の幸せを見出せる、そんな人生の方が本当の意味での幸せを感じられるのではないかと思います。
 「道院長」とは、その本当の幸せに気づく事ができる存在ではないでしょうか。