Vol.07 情報化社会の今こそ、感性を磨く環境づくりを

2012/12/03

尖閣問題から日本の国防力へ、国防力から憲法改正へ、自衛隊から国防軍へと、「~だから、こうでしょ」と、あれよあれよという間に、当然のごとく正論として聞こえ始めています。そんな状況に、危機感を覚えている方も多いのではないでしょうか。
少林寺拳法グループは39年余りにわたり、「日中の友好なくしてアジアの平和はありえず、アジアの平和なくして世界の平和はない」という創始者・宗道臣の思いの下、お互いの違いを認め合ったうえで協力できる人材の育成を目的に、中国の複数の団体と交流を続けてきました。
今回の尖閣問題を巡り、さまざまな報道がされる中で、ある関係者から「時代も変わり中国も変わった。少林寺拳法としても、創始者の思いとはいえ、日本の一民間団体が、古くからのつきあいがあるからと交流を続けることが国益につながるのか。中国の状況が変化し、親日にならずとも反日でさえなくなれば、民間友好交流は両国にとって有効だろう」とのレターが届きました。
誰がどうやったら反日や反中ではなくなるのでしょう。政治レベルの問題が民間にまで影響するのは、教育と報道によるものが大半です。だからこそ、このままではいけないと思う人たちが、少しでもその状況を打開するために、さまざまな努力を続けてきたのです。何も問題がなければ、わざわざ“友好”などと付けなくてもいいはずです。困難な状況だからこそ、民間レベルでお互いを知り合う機会をつくらなければならないと思います。中国国内の「反日」をいう人々や、日本国内の情報で日本人が「反中」になっている現実を見るにつけ、平和に対する思いを持った両国の人々による活動の継続が必要だと実感します。ここで、今回の問題に関して、朝日新聞(9月28日付)に寄稿された、作家の村上春樹さんのエッセイの一部を紹介します。
「国境線というものが存在する以上、残念ながら(というべきだろう)領土問題は避けて通れないイシューである。(中略)領土問題が実務課題であることを超えて、『国民感情』の領域に踏み込んでくると、それは往々にして出口のない、危険な状況を出現させることになる。それは安酒の酔いに似ている。安酒はほんの数杯で人を酔っ払わせ、頭に血を上らせる。人々の声は大きくなり、その行動は粗暴になる。論理は単純化され、自己反復的になる。しかし賑やかに騒いだあと、夜が明けてみれば、あとに残るのはいやな頭痛だけだ。その安酒を気前よく振る舞い、騒ぎを煽るタイプの政治家や論客に対して、我々は注意深くならなければならない。(中略)政治家や論客は威勢のよい言葉を並べて人々を煽るだけですむが、実際に傷つくのは現場に立たされた個々の人間なのだ」
情報化社会の今だからこそ、惑わされない感性を磨く環境づくりをしたいものです。