Vol.08 誇れる日本を残し伝えるために……

2013/01/02

新年、明けましておめでとうございます。
 東日本大震災から1年と9か月が過ぎました。日本国内の原発の大半が活断層の上にあるかもしれないという現状の中、原発再稼働の賛否だけに意識が向くような報道が多い日本です。福島第一原発の汚染水のその後や、空気中に拡散している放射性物質の状況がどうなのかなど、海外メディアは報道していても、日本ではまったくといっていいほど情報がありません。三陸の、被害のひどかった地域についても、「もう、被災地も落ち着いた生活をしている」と思い込んでいる人たちがいます。今年は特に寒波の影響で、北海道から東北や日本海側は、大雪に見舞われています。そんな中、仮設住宅で二度目の厳しい冬を迎えている人々がたくさんいるのです。
 昨年11月、津波被害のシンボルとなった松原の“一本松”を残し、町ごと壊滅してしまった陸前高田を訪れました。震災後、何度も訪れているのですが、1年9か月たってもまだ何も変わっていない現状がそこにはあります。街の中心部の瓦礫の撤去は、表面上は終わり、残った一部外観を留めるだけの大きな建物の解体がやっと始まり、道路の整備は進んできていますが、まだそこかしこに津波被害の爪跡が残っています。
 私たち少林寺拳法グループは、あるNPO団体の主催する、津波の到達した地点を後世に伝えるために桜を植樹するプロジェクトに参加しました。その作業地点にもまだまだ津波によって運ばれてきたものがそのままあるのです。また、全国各地の拳士が今もボランテイアに参加してくれている側溝の瓦礫撤去作業も、実際に経験すると、その必要性を実感します。表面は片づけられているものの、幅約45㎝、深さ50㎝はあると思われるその側溝には、震災当日の津波によってもたらされた瓦礫がまだそのままです。掘り起こしていくと、そこからは、津波の瞬間までの生活の証が出てくるのです。時には、行方不明者のご遺体もまだ見つかることがあるといいます。そこに生活していた方々の気持ちを考えると、側溝が埋まったままで行方不明者の確認もしないまま、ショベルカーやブルドーザーで整地されていくのを見ていられるでしょうか。
 復興予算が、被災地の復興支援以外に使われていたことが問題となりましたが、政府も人の痛みとしてどこまで把握しているのか疑問に思います。また、被災地の現状や、日本が将来に抱えるリスクについて、薄っぺらな情報しか提供されないことに対し、不安すら感じなくなっているとしたら、20年後、30年後の人たちに、誇れる日本を残し伝えることはできません。
 私たちの今が、便利に生活できたらいいのでしょうか。少林寺拳法グループは、惑わされない感性を磨き、よりよい社会の実現に果敢に挑戦するための自信と勇気と行動力を養うために、人との関わりを学べる環境を提供したいと思っています。