Vol.20 “人間力”を養うために、少林寺拳法は役立ちたい

2014/03/10

 南極に棲む皇帝ペンギンの子育てには、人間が失いかけている「無償の愛」と「生命のつながり」を学ぶことができます。
 ペンギンの子供が自力で餌を捕れるようになるには、生まれてから5、6か月はかかるそうです。もし、夏にヒナが生まれたら、独り立ちするころがちょうど餌の少ないマイナス40度の冬になるため、それを防ぐために、わざわざ厳しい冬に卵を産むというわけです。一回の産卵で生まれるのはたった1個。産卵で失った体力を回復させるため、メスは餌を求めて遠くの海に出かけます。メスが帰って来るまでの2か月の間、オスは卵が凍りついてしまわないように、袋状になった下腹部の羽毛で、ただひたすら我が子のために、飲まず食わずの状態でじっと寒さに耐えながら卵を温め続けるのだそうです。そして、メスが帰ってきたら、生まれたわが子を交替で守りながら、自立できるまで協力して子育てをするのです。
 この子育ての図は、すごいなあと感動しながらも、子供を持つ人間の親からすれば、形は違ったとしても、誰しも「そう、親とはそういうものだ」と共感するものだったはずです。しかしここ最近、日本の各所で次々と起こる乳幼児虐待事件を見ると、子供を振り回して床に叩きつけたり、置き去りにして餓死させたり、顔に熱湯をかけるなど、なぜそんなことができるのかと信じがたいものばかりです。そしてその理由が、「泣きやまないから」「懐かないから」「部屋を散らかすから」「御飯を食べないから」「自分が遊びに行きたいから」などという驚くべきものです。自分の都合から発するものが大半で、発覚すると、「自分だけがやったんじゃない」と笑みを浮かべていたり、「まさか死ぬとは思わなかった」「自分の見えないところで死んでいてくれたら」という、自分さえよかったら……という自己中心的な人間が子供を持ってしまっていることに危機感を覚えます。
 親になる以前に、人間として生きる力を何も養っていない、また養う社会環境が劣化している現代です。人間としてる生きる力、つまり“人間力”とは、困難を乗り切る知恵と、異質なものを受け入れ共存する度量とコミュニケーション能力、おかしいことをおかしいと言える勇気と伝達力、そして可能性を信じ、ポジティブに生きる力です。養うための環境が必要です。そういった“人間力”を養うために、少林寺拳法は役立ちたいと考えています。