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Vol.21 宗道臣との出会い(下):どうしようもないとき、どうするか

2015/09/15

「何か質問はないか」。宗道臣は、とろけるような笑顔で受講者を見渡しました。

「本当の強さとは、裸になったときの強さなのだ」。初めて聞く「管長法話」に、私は納得していました。納得しながら、しかし、私はその笑顔に釣られて、つい手を挙げてしまったのです。

「鉄砲を向けられたら、バンザイするしかない。“相手がばかか狂人でもないかぎり、いきなりズドンと撃たれることはない”と先生は言われますが、もし、相手がばかか狂人で、こっちがバンザイしているのに、いきなりズドンと撃ってきたら、どうするのですか?……」。

ここでやめておけばよかったのですが、私は調子に乗っていました。「何かの本で読んだのですが、ある武芸の達人が、手に持つ鉄扇で、飛び来る鉄砲の弾を打ち落としたといいます。少林寺拳法にも、とっさに体をかわすとかはじくとか、何か、特別な秘伝とか奥伝とかはないのですか?」。

「そんなものはない」。爆笑する受講生を制して、宗道臣は言いました。「相手がいきなりズドンと撃ってきたら、そのときはな……」、一拍おいて、「そのときはな、運が悪かったと思うて諦めるんだな」。

しばらく私の顔を見て、宗道臣は言いました。「“どうしようもないときは、どうしようもないよな。そう肚(はら)を据えるのが、少林寺拳法の極意といえばいえるかな」。

「“どうしようもないときはどうしようもないが、…」。宗道臣の話は続きます。しょせん、白帯の一拳士の的外れな質問に、また、それでなくとも、次の実技の時間に食い込んでいるのに、と恐縮したり焦ったりする私にかまわず、「“どうしようもない“と諦める前に、これは、本当にどうしようもないことなのかと考えなさい。ほかに、何とかしようがあるのではないかと…。高くて硬い壁にぶち当たったと思ったら、梯子(はしご)を探してみよう。穴を掘ってくぐり抜けられないか。この壁はどこまで続いているか回ってみるとか。仲間と力を合わせれば、乗り越えられるかもしれないし、時には機が熟すのを待つことも必要だろう。とにかく、まずやってみること、初めから諦めないことが大切なんだ」。

私は、改めて納得しました。と同時に、たった一人の新入門者とも直に向き合い、何としても分からせずにはしておかないという、宗道臣の語りかけの真摯さに、胸を熱くしていました。

それから50年。あの宗道臣との出会いの一こまは、今も私の中で生き生きと息づいています。

鈴木義孝

1930(昭和5)年、兵庫県神戸市に生まれる。大谷大学文学部卒業、姫路獨協大学大学院修士課程修了。16年間の中学・高校教員生活を経て、69年より 81年まで、金剛禅総本山少林寺、社団法人日本少林寺拳法連盟、日本少林寺武道専門学校の各事務局長を歴任。金剛禅総本山少林寺元代表。現在、一般社団法 人SHORINJI KEMPO UNITY顧問。194期・大法師・大範士・九段。

鈴木義孝