Vol.29 自ら判断できる人間を育てたい

2014/12/10

超少子高齢化の現代社会に、今後もっと大きくなる介護問題や教育問題、アジアの一員としての日本の将来など、山積する諸問題を目の前にしての衆議院解散。女性登用パフォーマンスも一幕終わり、選挙で霞がかかりました。
東西冷戦時代の終結とともに訪れると思われた共生時代は、やはり大国のつくり出す次なる緊張関係に翻弄され、気を抜くと煽られるがままに戦後築いてきた理解と協力関係を自ら破壊し、過去へと時計の針が戻されそうです。
最近「自虐史観」という言葉をマスメディアがよく使います。確かに世界を見ても日本ほど謙虚を美徳としてきた国はないと思いますし、自己主張が苦手なのも事実だと思います。しかし、戦後70年たってことさらに「自虐史観」という表現で連発されることに危機感を覚えます。
その連発する方々の主張の基本となる考え方は、戦後の日本人が歪んだ歴史観を持った理由を「戦後半世紀の間、歴史資料の公開が極めて一方的で偏っていた」とし、その背景を「敗戦国である日本の資料は戦勝国に押収され、まともな資料は50年たたないと出てこない」「日本人の歴史観を歪めるための数々の意図的な謀略がそこにあった」とまで主張します。悪いのはみんな戦勝国とその利権に絡む者たちの仕業だと。だからこそ一刻も早く自立(独立)する意味で押し付けられた憲法から脱却すべく“憲法改正”をと話はつながるわけですが、これはまさに今日本の政府が進めようとしている方向そのものです。
 その政府が、歴史の真実も今現在進行中のことも将来のことも、まともな情報として信頼できるかどうか検証することさえできなくなる「特定秘密保護法」を、いよいよこの12月10日に施行します。報道を含め国民の知る権利が阻害されるのではという質問に対し、安倍総理は、この法律によって国民に不利益なことがあったら即刻やめると言いました。驚くほど即答でしたが、何も公開されず何が起こっているのかも分からず、“国民の不利益”をどう判断するのでしょうか。この法律のない沖縄返還時の密約問題でさえ、やっと今になって「あった」とだけ認定されましたが、それらの文書はあったけれど今は「ない」で終わりなのです。歴史の事実を歪めるのは、「反日感情を持った他国の他人」とする考え方の方が、明らかに日本の自立を阻害すると思います。
 私は戦後の生まれですが、明治の終わりに生まれ激動の時代を生き、若くして中国大陸にも渡った父親(少林寺拳法創始者)から、生々しい話を聞いて育ちました。何が正しくて何が間違っているかの判断の一つは、自らの野望を国家や関わる組織の名を借りてその名の下に正義として振りかざす、そういうものに対する見極めだと教えられました。
 しかし、人間は危機感や本当の怖さを感じないと、なかなか教えは自分のものにはなりません。戦前・戦中・戦後を経験した心ある人たちに守られ、戦後の安定した時代だけを生きてきた私ですが、今のこの社会状況はただ事ではないと恐ろしく感じます。歴史を教訓としたくない人たちのあまりにも国民に無責任な、自分や自分たちのための正義です。
 特定秘密保護法施行という日本の歴史を塗り替えるこの時期に、消費税増税延期を打ち出し国民の信を問うと、600億円にも及ぶといわれる選挙に突入です。
少林寺拳法は政治団体ではありません。しかし、社会に関心を持ち他人事にせず自ら判断できる人間を育てたい、というのが少林寺拳法の目的です。
 これまで選挙に無関心だった方々も、もう無関心でいてはいけません。知らなかった、そんなつもりじゃなかったでは済まされない、そんな時代です。