vol.32 大阪平野道院 道院長 川添浩史

2014/01/27

「志」から生まれる強固な「縁」、仲間に囲まれた心豊かな人生
大阪平野道院 道院長 川添浩史

大導師・大拳士五段、461期。1980年10月、大阪市出身。2003年、近畿大学卒業後。2006年、日本郵政公社(現・日本郵便株式会社)入社。1987年、大阪平野道院(当時・井上勉道院長)に入門。2008年、道院長交代し、現在に至る。大阪府教区儀式・行事推進委員長や大阪府教区会計も務める。

大阪平野道院 道院長 川添浩史

道院長になろうと思ったきっかけは?
正直な話、これっぽっちも道院長になろうと思ったことはありませんでした。練習もよくサボるし……(笑)。

しかしある日、師匠から「引退しようと思う。誰も後継者がいなければ閉鎖しようと思う」とお話がありました。以前からそのようなことは話されていたのですが、私を含め幹部一同、本気だとは思っていませんでした。

ちょうど道院幹部が充実しはじめ、行事や大会などを積極的に行い、道院を盛り上げていこうと一致団結して進んでいる頃でした。そんな中で勇退の話に、あわてて緊急幹部会議を開きました。

その時、なぜか私の中で「道院長」という言葉が頭をよぎりました。今まで育てていただいた師匠に対する恩返し、少林寺拳法に救われたこともたくさんありました。もし、少林寺拳法をやっていなければ私は本当につまらない人間になっていたかもしれない……さまざまな思いがこみ上げ気がつけば「私でよければ……」と発言していました。

幹部の意見は、私のこれからの事を心配して本気で反対してくれる人、賛同してくれる人、と二分しました。しかし、私の決意は変わりませんでした。その後、師匠とOB、現役幹部を含めた話し合いの中で、私が正式に後任にならせていただくことになりました。私の今後を心底心配して反対した幹部の方もそこまでいうならと賛同してくれて、今では最大の理解者、最高の幹部として私を支え続けてくれています。また、その時の幹部は皆、今でも私を様々な面で支え続けてくれています。

交代することが決まってからは本当に激動のような日々でした。父の死、新しい道場探し……。しかし、幹部がそれぞれの持ち場で全面的に協力してくれ、新しい場所も無事に見つかりました。様々な障害を乗り越え、2008年2月1日に本山より運営許可をいただきました。奇しくもその日は、父の一周忌の命日でした。

あと少しタイミングがずれていたら道院長になっていなかったと思います。また、あのときの幹部が誰一人欠けていても道院長になっていなかったと思います。今しかない、そういうタイミングで道院長になるチャンスをいただけたことに感謝しています。

aun_genki_vol17_02道院での指導方針・方法の工夫を教えてください。
まず私自身が少林寺拳法を楽しむこと、ここがスタートだと思っています。

修練では本気の攻撃に対してきちんと対処することを目標にしています。演武練習においても小学生の茶帯には拳サポーターと脚サポーターを着けて、本気の攻撃を本気で受ける演武をやってもらっています。それが結果的に正しい形の受けにつながっていると思います。柔法も同様に、きちんとした攻撃を行い、きちんとかけるように心掛けています。

また一般部は学生拳士の自主性を重視しています。幹部が集まって開く会合に学生も参加してもらい、一緒に物事を決めていきます。その時は中学生であろうが社会人であろうが関係なく、一人の道院幹部として参加してもらいます。自分の発言に責任を持ってもらえるように、発言したことは実行してもらうよう、社会人拳士に協力をお願いしながらできる限り若い力で頑張ってもらっています。

通常の修練においても自主性を重視し、私からは「楽しく修練してほしい。皆さんの姿を見た人が、その雰囲気に入りたいなと思えるような、楽しくかつ真剣に取り組める修練をしてほしい」とだけ言っています。結果として私が指示をださなくても皆それぞれ目標を持ち取り組んでくれています。

少年部はSAQトレーニングを取り入れ、インナー(正中線)の強化に努めています。また、少年部も組織として機能するよう班をつくり、班長、副班長に責任を持たせています。伝達事項や白帯への注意や指導は班長、副班長にしてもらっています。子どもを子どもが指導する組織づくりを目指しています。

他にも一般部では、人前でしゃべる練習に抜き打ちでスピーチをしてもらったり、行事の企画書を作成してもらったりと様々な施策を実施しています。社会に出た時のスタートラインで他の人より抜きん出てもらえているよう幹部と一緒に試行錯誤しています。

全体としては運用法の大会(実はこれが一番盛り上がります)を年3回実施したり、各種大会や行事の後の打ち上げ等を開催したり、結束を高めるとともに、道院への貢献に対するねぎらいを決して忘れないようにしています。

私は道院を「怒られるけど居心地のいい場所、自然と人が集まる場所」にしたいと思っています。そのために24時間365日いつでも使える自前道場の利点を最大限に発揮して、今後もいろんな施策を打ち出していきたいと思います。
 

aun_genki_vol17_03道院長になってからの感動エピソードをお聞かせください。
ある年の私の誕生日のこと、その日は練習もなくたまたま家にいたのですが、昼頃、小学生の女の子の拳士からメールが来ました。「今から道場に遊びに行ってもいいですか?」と、特に予定もなかったのでいいよと返事しました。8人くらいの拳士が来て、道場で遊んだり、道院長室でしゃべったりしているようでした。しばらくして「先生来て~」と呼ばれて道場に行くと、私の誕生日パーティーの準備が整っていたんです。ケーキとプレゼントが用意されていました。思いがけないサプライズが本当に嬉しかったです。今までの人生の中で何よりも幸せな誕生日になりました。心からみんなに感謝しています。

「拳士の成長」、これはすべての道院長が経験される一番の感動だと思います。成長はふとした瞬間に気付かされるものです。例えば合宿の時、私からは何も指示していないのに、中学生たちが自主的に少年部の部屋を点検し、ゴミや忘れ物がないかを確認してくれていたことがありました。嬉しくてたまりませんでした。今までの私の指導方針に間違いがなかったと思わせてくれた瞬間でした。

また、これは感動のエピソードではありませんが、奥村正千代先生から教わった数々のことが大きく心に残っています。特に先生が病に倒れられ、入院されてからの事が今でも強烈に印象に残っていますし、そこでお話させていただいた時間が、私の道院長人生を大きく変えるものになりました。奥村先生は入院されてからはほぼベッドに寝たきりで点滴生活をされていました。しかし、私がお見舞いにおうかがいすると、常に2時間以上、面会時間終了までいろいろなお話をしてくださいました。ベッドの上で形を示し技術のお話もありましたが、ほとんどが道院長としてあるべき姿についてでした。

「経験は最良の教師なり」。そのすべてが先生の体験からのお話で、非常に説得力があり、すべてが心に響きました。まだ道院長になって間もないころでしたが、道院長として目指すべき姿が明確に見えました。

ある日、帰り際に「お前もわしの弟子の一人や、頑張れ」というお言葉をかけていただきました。それが先生と交わした最後の言葉になりました。奥村先生との最後の時間と師匠からの多くの教えが私の道院長としての指針となっています。
 

aun_genki_vol17_04道院長として今後挑戦したいことや夢はありますか?
今後、挑戦したいことや夢は数えきれないほどあります。これはまだ漠然として具体的にはなっていないのですが、大阪平野道院で同じ時間を共有した多くの仲間たちとともに、平和と福祉に少しでも貢献できるようなことをしたいと思っています。

楽しい仲間とともに同じ目標に向かって協力しながら進んでいくことのすばらしさを、私は今回の世界大会で身をもって体験しました。どんな困難でも仲間がいるから頑張れる。これは事実です。そして仲間とともに何かをやり遂げた充実感は、体験した人にしか味わえないすばらしいものです。それを少しでも多くの人に体験してもらいたい。そのためにもまずは仲間を一人でも多く増やし、「縁」を増やすために、少林寺拳法を知らない人たちへのアピールをどんどん行っていきたいです。

「楽しい仲間とともに 世界の平和と福祉に貢献せんことを期す!」

私と大阪平野道院のテーマであり、これに向かって挑戦し続けたいと思います。
 

aun_genki_vol17_05最後に、将来道院長を目指す全国の拳士にエールをお願いします。
道院長はたいへんだという言葉をよく耳にしますが、私は決してそうは思いません。何をやるにも本気で取り組めば楽なものはありません。

しかし、本気で「志」を持って取り組めば、その分得られるものは計り知れないほど大きなものになります。道院長の「志」が周りに伝わり、それがもとで生まれた「縁」は強固です。私にはいつも助けてくれる人がそばにいます。それは道院長としての私の「志」を共有し、共感してくれている幹部であり仲間です。私は道院長になったおかげで最高の幹部に出会うことができました。これは最大の自慢です。私が頼りない分、幹部がしっかりしてくれているおかげで道院が成り立っています。

また、道院長だからこそ出会える「縁」があります。常に「縁」のアンテナを張り、自ら行動して「縁」をつかんできました。これはかけがえのない宝物です。「人生、出会うべき人には必ず出会う。しかも、一瞬遅からず、早からず。しかし、内に求める心なくば、眼前にその人ありといえども縁は生じず」です。皆さんもすばらしい「縁」をしっかりとつかんでください。そうすることで自らの人生が豊かになり、とても充実した人生を送る事ができます。その中でも「可能性の種子」である門下生との出会い、自分を変えてくれるような出会い、うまく表現するのが難しいのですが、道院長にしか味わうことのできない感覚があります。私も道院長になるまで一切それに気がつきませんでしたし、気付こうともしていなかったように思います。

一つ気をつけないといけないのは、道院長のやる気は門下生に敏感に伝わります。道院長の熱意があると門下生は増えますが、ちょっと気を抜くと一気に減ります。常に燃え続けないといけません。大変ですが、道楽は大変だからおもしろいんです。

道院長になるチャンスは誰にでもありますが、何度もチャンスがあるとは限りません。もし今、少しでも悩んでいる方がいるなら、今です。「やる前からあきらめるな」と開祖はおっしゃっています。できないことを考える必要はありません。まずは前を向いて共に歩きだしませんか? ゆっくりでもいい、一歩ずつ進んで行った先にある景色は、必ず皆さんの人生を想像以上に豊かにしてくれます。さあ、多くの仲間とともに「縁」に囲まれたすばらしい人生を送りましょう。