vol.42 教範に帰る

2015/10/01

 北陸新幹線が今年の3月14日に金沢まで開業したことにより、北陸への企業誘致も進んでいます。私の地元、黒部市でもファスナーやアルミ建材で有名なYKKが本社機能を黒部事業所に移すことになり、社員だけでも約200人が富山に転居されます。そのおかげもあり、住宅の新規着工は伸びているそうですが、工務店さんの話によると、若い世代だけで住む新築住宅の80パーセント以上には神棚も、仏壇もないそうです。長男や次男でも、親と離れて新居を建てる場合には、家には仏壇も神棚もないのです。葬式や法要が檀家との接点であった寺にとって、これは急激な檀家の減少を意味します。葬式が寺ではなく、セレモニーホールで行われるようになったことも寺離れに追い打ちをかけています。
 しかし、このような危機に際し、伝統的仏教教団もいろいろな工夫を始めています。最近の新聞紙上では、お坊さんバンドによるコンサートや、お寺での講演会や演劇などの記事が目につきます。それらの催しを通じて、まずお寺に足を向けてもらい、もともと行っていた早朝法話会への参加を促すなど、若いお坊さんたちが本来の布教に立ち向かう活動が目立ってきています。また一方、今年春からテレビ朝日系で月曜夜7時からの「お坊さんバラエティぶっちゃけ寺」という番組が放映されたり、本屋に行けば仏教に関する本がたくさん並んでいるなど、仏教への関心は高まっているようでもあります。写経や座禅などのプチ修行や、お坊さんと話ができる寺カフェなどもブームになっているくらいです。
 さて私たちの教団でも、道院での金剛禅活動の充実を目指していますが、ある月刊誌の6月号で、お好み法を問42jpg焼き専門店「千房」の社長、中井政嗣さんは「人は無限の可能性を持っていることを私自身が実感しています」と語られています。また、元・京都大学総長の平澤興さんは「仁というのはつまり、人間が人間らしく生きるということ。それは自分を生かし人を生かすということ」「人間は皆さんすべて例外なく素晴らしいものであります。やればできるという、140億の神経細胞がまっておるのであります」と。筑波大学名誉教授、村上和雄さんは「相手を変えようと思ったら、まず自分が変わる。そうすれば家族が変わり、周囲も変わっていく」と述べられています。たった一冊の本の中にも、「少林寺拳法教範」や開祖語録などで見たり聞いたりしたことのある言葉がたくさん出ています。開祖の教えは70年を経ても現実の社会に生かされ、必要とされているのです。金剛禅は、釈尊の正しい教えを現代に生かすものでありながら、同時にあくまで開祖の体験に裏付けられた思想と行動から生み出されたものです。ですから私たちの判断の基準、評価の尺度となるのは、あくまでも「教範」でなければなりません。そこに、開祖が現に生きて、私たちに実践の基準を語りかけておられるからです。
 「教範」を真に理解するためには、多くのことを学ばなければなりません。自分が分かり、他人にも分からせる。「半ばは他人とのことを」という金剛禅ならば、本当に分かったといえる信念を持って、相手にも分からせるものを真剣に身につける必要があります。
 今の社会に生かされ、必要とされている金剛禅の教えを、自信と誇りを持って説くためには、私たちはまず「教範」から出発し、そして「教範」に立ち返らなければなりません。
(文/東山 忠裕)