• >
  • vol.49 道院とその可能性について

vol.49 道院とその可能性について

2016/12/01

 1986年(昭和61年)4月。金剛禅布教の地として、生まれ故郷の葛飾区亀有に、「亀有道院」を設立した。
 それから早30年以上の月日が経とうとしている。設立当初は人が集まらず、道衣を着て一人で街中を走ったりしたものだ。
 もともと武道好きで、柔道部に所属していた私が少林寺拳法と出会ったのは、中学生の頃、本屋で手に取った「秘伝少林寺拳法」という本がきっかけだった。
 その本に感銘を受けた私は、早速道場を探した。当時は東京でもあまり道院はなく、ましてや中学生の身では探せる範囲も限られており、ついに見つけることができなかった。そこで私は、無謀にも開祖に直接手紙を出すことにしたのである。
 すると開祖から、なんと返信をいただくことができた。そして当時の祖師谷道院(故内山滋道院長)と大塚道院(現東京大塚道院とは別)を紹介していただいた。ただ残念なことに、当時事情で通える条件が整わず、諦めてしまった。
 その後、働くようになって縁があり、千葉の石井宏明先生のもとに入門させていただき、果たして長年の夢がかなった。
 入門後、少林寺拳法は私の肌に合っていたようで、非常に面白く修行をさせて頂いてた。今考えると、少林寺拳法の素晴らしさは技術だけではなくやはり金剛禅の教えがあることが修行を続ける要因となっていたのではないか。
 その後、五段が允可され、生まれ育った亀有でこの素晴らしい教えを広めようと思い立ち、亀有道院を設立するに至ったのである。
 今でこそ亀有は住宅街としてマンションも立ち並び、住人も多いが、昔は繁華街で駅前はの一部では少し物騒な場所もあった。また、武道の道場も結構あり、当初は他武道からの挑戦もあって、正に身体を張った毎日だった。
 その後、地元での祭りや社会活動にも参加し、次第に認められてくるようになり、門下生も増えてくるようになった。
 今この30年を振り返ると、開祖の言うように単なる武道屋になってしまったらここまでは続かなかった。単なる技の指導だけではなく、金剛禅の教えを修練に生かしながら布教し、また、門下生をはじめ多くの仲間達に助けられ、支えられて何とか続けて来られたのだと思う。
 これまで一番苦労したことといえば、やはり仕事と道院運営との両立である。しかし、一生懸命修練に通って来る拳士達を見ると、とても辞めようなどとは考えられなかった。
 逆に何とかして続けようと、幾度も転職を繰り返した。お陰様で自営業で食べて行けるようになり、道院の運営も安定してきた。
 過去30年に渡って布教してきた亀有道院での活動は、今自分が還暦を超えてみると、やはり、健常者を中心に、自分自身に自信をつけることを中心に行ってきたという思いが強い。いわゆる社会的な弱者への、想いが足りなかったと思い返している。
 そこで亀有道院設立30周年を機に、今までこういう活動に中々参加できなかったと思われる、障がいを持った方や高齢の方々にも参加いただける機会を積極的に作ってゆきたいと考えるようになった。
 近年、障がい者の方々に対する法整備が進み、社会進も活発になってきている。しかし、こういった方々がより広く社会で活躍されるようになるまでは、まだまだその場は少ないと思う。
 思えば、少林寺拳法と障がいを持った方との繋がりは古い。
 元直島道院の上田先生が、片腕でありながら開祖に入門を請うた時に、開祖は快くそれを受け、「片腕でも少林寺拳法は出来るぞ、七転び八起きの達磨さんを見てみい、両腕だってなくても悟りを開いた。」と励まされたという。
 開祖の創始された少林寺拳法は、本来金剛禅運動の手段でなければならない。
 多くの人達が幸福な社会を創生してゆくためには、そのアプローチにも無限の可能性(在り方)があっても良いと思っている。
 少林寺拳法健康プログラムも、発表当時は批判もあったが、現在その活動は着実に広まり各地に根付きつつある。
 道院にもいろいろな活動方針があっても良いのではないか。
 開祖は、「道院長はそれぞれの工夫と創意でいろいろな布教活動があってもいい」と、布教手段としての多様性を仰られていた。
 金剛禅運動の布教の最前線として、社会のあらゆる人々にその門戸を開いているのが道院である。親子・兄弟・祖父母と孫等、こんなに多くの人達が共に楽しめる道は金剛禅の道院を置いて他にはないと思う。
 開祖は、金剛禅は運動体だとよく説かれていた。この素晴らしい教えは行動してこそ力が発揮される。
 だからこそ、我々は開祖の残された金剛禅という素晴らしい財産を、幸福運動として、継承・発展させて行かなければならない。最後に、私の好きな開祖の言葉を紹介して終わりたいと思う。
 強い奴をつくる必要はない!負けない奴を作ればいい!拳法は手段!目的は他にある!宗 道臣
(亀有道院 道院長 中林純一)