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vol.51 少年拳士に教わった「本気」

2017/03/01

 学校が終わって、疲れた顔で道場に入ってくる少年拳士。練習は休まず来ていたが、活気がなくいつも小さな声で合掌礼。そんな彼が初段を受けたいと道院長にポツリとつぶやいた。
 受験まで後2カ月、道院長から指導の担当を任された。本人にその事を話したが、返事は小さな声で「お願いします」の一言。どんな指導形態がいいのか、毎晩考えた。とりあえず組手主体の練習ばかり。「もっと気合いをだせ!」「やる気はあるのか?」と怒鳴り声で指導することもあったが、本人には伝わらなかった。私のモチベーションも下がってきた。
 そんなある日、いつものように彼が練習にやって来た。「今日は剛法の練習をやるから防具をつけてきなさい」と言った。科目は内受け突き。「顔にあたってもいいからおもいっきり突いてきなさい」彼は「本当にいいんですか?」の一言。その後、本当にしっかりと突いてきた。私もびっくりして、とっさによけて中段をおもいっきり突いてしまった。「しまった!怪我してないかな」と思った。彼はよろけていたが、何とか立っていた。その時である。彼の顔を見た時、私は驚いた。彼の顔つき、特に目が輝いていたのである。「どうした、大丈夫か?」と言った後、彼から一言、「スゲエ、俺、先生の突きに耐えれた。強くなったんだ」と。
 「凄いやないか、おまえが頑張った証拠だ」「わかった。先生、これからも本気で相手して」私はその一言で気づかされた。今まで自分の方が「本気」じゃ無かったんだ。そして深く反省した。子供は先生が本気じゃないという事を見抜いていたんだ。それから私も本気で彼と向き合い、彼もそれに応えてくれた。試験は見事合格。私は涙がでたがそんな姿は見せられない。「よく頑張った」と声をかけて、心の中で「本気を教えてくれて、ありがとう。」と思った。
 今の彼は、大きく変わり練習も休まない。
 今回もまた、少林寺拳法を続けていてよかった、と思った出来事でした。
(飯塚中部道院 田中 祐二)

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