vol.52 御船道院 道院長 緒方 公

2017/05/01

比べるのは過去の自分
御船道院 道院長 緒方公

1983年御船道院に入門。大学時代は熊本学園大学少林寺拳法部に在籍。
卒業後、御船道院に戻り、副道院長、道院長代務を経て、2010年2月道院長交代、御船道院長となる。

御船道院 道院長 緒方公

―――道院長になろうと思ったきっかけは何でしょうか。
 道院長になろうとした最大のきっかけは先代の菅敏光道院長がご高齢を理由に道院長交代の話を私に持ち掛けられたことです。いずれは道院長にという思いはありましたが、少し早いなと当時は思っていました。しかし、当時道院には30名程の拳士がおり、道院では彼らからすれば兄弟子という立場から、何とかしなければという思いが強くありました。

―――道院での指導方針や指導法としての工夫を教えてください。
 御船道院の指導方針は「楽」です。長く続けるためには楽しむ気持ちがなければなりません。もちろん、ただ楽しむだけではなく、努力した結果、成長した自分に気づく楽しみを求めています。そのために、現在から少し前の自分を思い出してもらいます。そうすると、少しでも成長し変化した自分を認識することができます。この確認作業は他者と比べるのではなく過去の自分と現在の自分を比べることで自己確立の進捗状況を確認することになります。

―――道院長になって出会った感動のエピソードをお聞かせください。
 道院の中でとても後輩の面倒見が良いある拳士がいました。しかし彼は、中学校では問題児だったのです。先生や保護者に反抗的な態度をとっていたのでした。私の前では一切そのような素振りを見せることはなかったので大変驚きました。問題が発覚した後は、保護者の相談にも乗り、何度も家まで行って話を聞き、何とか中学校は卒業することができました。結局、彼は高校へは行かずに働くことになり道院も休院していたのですが、ある日給料が入ったからと後輩の皆にケーキを差し入れてくれました。周りに迷惑をかけていた彼にも人を思いやる気持ちがあることを再確認できて嬉しく思いました。
 また、別の拳士は自分の意見が言えずに嫌がらせを受けていて、道院に入門してきました。しばらくして再び嫌がらせを受けたときに自分の気持ちを伝えてやめさせる事が出来たとのことでした。そして運動会では応援団に挑戦したそうで母親が嬉しそうに我が子のことを語る姿をみて、力になれたかなと思い、嬉しくなりました。数え上げたらきりがない程、道院長冥利に尽きると感じています。

―――道院長として今後挑戦したいことや夢などを語ってください。
 私は沢山の先輩道院長にお世話になり、今も勉強させてもらっています。今まで何十年も金剛禅を守ってこられた先輩道院長に感謝し、それを踏まえた上で、やはり後進の育成が一番の目標です。自分が受けた恩を次に還元しようと実践する人間が御船道院から育って欲しいと願っています。志を持った人間が一人でも多く育ち、互いに助け合っていける環境を作りたいと思います。はじめは一人でできなくても何人かで助け合って人を増やしていく中で自立できれば、また次に自立する人を助ける。そんな循環ができれば多くの道院長が育つのではないかと思います。

―――仕事や家庭についてどのように両立させているかお聞かせください。
 幸いにも我が子達も皆拳士ですから、子育ても金剛禅の教えが中心になっています。勇気、正義心、慈悲心、行動力、幼い時から金剛禅に触れて生活しているので自然と大切なことを学んでくれているように思います。妻は拳士ではありませんが、一保護者としてサポートしてくれますし、道院の拳士一人一人に母親のように接してくれ、ありがたいことだと感謝しています。

―――最後に将来、道院長を目指す全国の拳士へ、一言エールをお願いします。
 道院長としては、まだまだ駆け出しの私ですが、門信徒の、特に子供達の成長は驚くほどに早く、沢山の喜びを与えてくれます。すべてがうまくいくわけではありませんし、たくさんの失敗もあります。しかし失敗は成長を促してくれます。道院長になるには早すぎると感じていた私ですが、今後道院長を目指す皆さんにはなるべく早く道院長になって欲しいと思います。初めから立派な道院長である必要はないのです。沢山の失敗と、そんな自分を支えてくれる沢山の仲間が道院長を作っていくのです。誰でも誰かの力になれる、まずは小さな架け橋から、そして気づいたら大きな架け橋になっているのではないでしょうか。20代30代の道院長と聞くだけで楽しくなってしまいます。私も負けずに頑張ります。

追記
 昨年2016年の熊本地震の際に、師家はじめ代表、全国の道院長、門信徒の皆様から迅速かつ暖かいご支援を賜りましたことを心から感謝申し上げます。
 今後とも全国の道院長、門信徒にお力添えいただきます様よろしくお願いいたします。