vol.57 阿波市場道院 道院長 藤野 起夫

2018/03/01

なんとかなる
阿波市場道院 道院長 藤野 起夫

中導師、准範士、六段 527期
1971年5月17日生まれ 46歳
出身地:徳島県阿波市
徳島県職員として入庁し行政に従事し約25年
1993年21歳で鷲敷支部道場(齋藤容子支部長(当時))に入門
1995年転勤を機に脇町道院(滑田信夫道院長)に転籍
2007年武道専門専門コース(本部地区)
研究科修了
2012年41歳で阿波市場道院を設立
2013年認証、現在に至る

阿波市場道院 道院長 藤野 起夫

―――道院長になろうと思ったきっかけは何でしょうか
30代半ばに、近隣道院の道院長が怪我で療養中に、道院長代行としてお手伝いさせて貰ったことがターニングポイントになりました。自分の指導によって拳士が一喜一憂する姿を見て、難しいけど、やり甲斐があり、面白いなという気持ちになり、「道院長になりたい」という思いが強くなったことを覚えています。
当時は、道院長という重責を担う自信がなく、一歩踏み出す勇気が持てずに、悶々としていました。そのような状態が5年ほど続きましたが、チャンスはある日突然やってきました。
現在当道院の所在する町で活動していた道院が、他の町へ移転するとのことで、声をかけて頂きました。その心意気に応えなければ、ずっと後悔すると思い、同じ後悔するならチャレンジしてからにしようと決心し、すぐに道院長資格認定研修会を受講しました。
長年思案していたのが嘘のように、決断してから道院開設まで、わずか4ヶ月程でした。「待てば海路の日和あり」とはこのことだと思いました。今はその「縁」に深く感謝しています。

―――道院での指導方針や、指導法としての工夫を教えてください
私の指導のモットーは、「笑顔で帰ろう」です。現代社会においては、子どもも大人もそれぞれが悩みやストレスを抱えて生活しています。そんな拳士達に明日へのエネルギーを注入し、道院に入って来たときの「こんばんは」よりも、帰るときの「さようなら」が元気に笑顔で言えるように心掛けています。
そのためには、相手のコンディションを知ることが必要なため、最初に行うストレッチ・体幹トレーニングや基本に時間をかけ、拳士達の表情や様子を伺います。そして、必ず一人ずつ組手をし、技術修練をしながら、コミュニケーションを図るようにしています。まずは自らがやってみせますが、こちらの一方的な指導にならないよう、必ず相手にさせてみて、「褒める」ことを忘れないようにしています。褒められると嬉しいし、自信にもなり、誇らしい表情に変わります。
厳しさも必要ですが、親近感も大切です。当道院では大人と子どもが一緒にできるゲーム感覚の練習も取り入れています。しっぽ取り(帯にヒモをぶら下げて取り合う)やリレー形式での競争などは、むしろ技術修練よりも白熱しています(笑)。
やはり、拳士達にとって、心のリセットができる「居心地の良い場所(自分の居場所)」であり、道院に行くことを心待ちにするような、「敷居の低い」場所でありたいと思っています。
「私でも学ぶことができるのかな?」
「私でも理解できるのかな?」
「私でも続けることができるのかな?」
そんな不安を、
「誰にも親しみやすく、誰にもわかりやすく、誰もが笑顔になれる」
をコンセプトに日々試行錯誤しながらやっています。

法話を行っている様子

―――道院長になって出会った感動のエピソードをお聞かせください
道院長になって5年ほどですが、すでに数え切れないほどの感動を味合わせて頂いております。当道院では、儀式行事に併せて懇親会も頻繁(2ヶ月に1回ほど・・)に開催しております。拳士だけでなくその家族も楽しみにしていただいており積極的に参加してくれています。大勢が「少林寺拳法」の「縁」で集まれることが、何よりも嬉しいことです。
ある会の時に、進学で道院を離れた拳士から、「自分が人生で一番苦しいときに、少林寺拳法に出会えたこと。みんなに出会えたことが自分の心の支えになった」というメッセージを貰いました。受験にはお守りとして筆箱に袖章を入れていたそうです。今も大学で継続して修練しています。本当に人の人生に大きな影響を与えていることの責任とそれに勝る大きな喜びを感じました。
また、設立記念日に「寄せ書き」を頂き、みんなの道院に対する熱い想いが語ってあり、総じて「(少林寺拳法や道院の仲間に)出会えて良かった」と感謝の気持ちが綴ってありました。しんどい時には、それを見て自分を鼓舞させています。どんな薬よりも効き目があります!
これからも多くの困難はあると思いますが、それ以上の感動を得ることが、自分のモチベーションになっています。多くの宝(門信徒)に囲まれていることに何よりも「感謝」しています。

設立5周年を記念した懇親会にて

―――専有道場の確保について
道院活動を開始して半年が経過する頃に組織機構改革があり、専有道場を探すことになりました。拳士も徐々に増え十数名になっていた頃でした。正直、1年以内に見つけるのは至極困難だと思っていました。
しかし、来ている拳士達のためにも、何とかしないといけないという思いで、週末は、自転車で町内を駆けずり回り、めぼしい物件をリストアップし、手当たり次第に当たっては断られるという繰り返しで時間だけが過ぎていきました。
そんな時に、道院拳士の仕事関連で知り合った方が、話しを聞いてくれるということで、わらをもつかむ気持ちで電話をかけたことを覚えています。運送会社の倉庫の一角を練習場として提供してくれるとの提案でした。「地域の子供達のために活動してくれるのだから協力しよう」と言ってくれたときは、本当に嬉しかったです。
また、練習できるようにと座板も無償で張って貸してくれました。「感謝」のひと言しかありません。地域のために尽力して恩返しするしかありません。
道院長になって最大のピンチでしたが、それをチャンスに変えることができたからこそ、今があると思います。苦しかったですが、その困難にも「感謝」しています。

―――道院長として今挑戦したいことや夢などを語ってください。
まずは道院を継続して運営していくことが最重要であり、そのためには、地域で認知される必要があります。これまでに、地域のお祭りへの参加や福祉施設への慰問活動をやってきましたが、単発的なもので終わっています。そこで、地域に根付いた活動として、道院を積極的に有効活用したいと考えています。
修練場には、約100㎡の修練用マットを敷き詰めており、幼児や乳幼児(1歳未満)でも安全に運動することができますので、親子のコミュニケーションを図る場としても最適です。子どもを遊ばせながら、目の行き届くところで何か有意義な活動(健康プログラムなど)ができれば、一挙両得でみんなが幸せになれるのではないかと思います。まずは身近なところから活動を始めて、将来的には道院が地域から頼られる存在になれることを目指しています。

地域のお祭りでの演武披露

―――個人として(一社会人として)頑張っていることや、目指していることがあればお聞かせ下さい
現在、職場では部下4名を従えるサブリーダーという立場で仕事をしています。自分よりも年上の方が3名おり、接し方には気を遣いますが、当道院には、6名の年上拳士がおり、少林寺拳法の修練を通じて普段から、「間合い」の取り方が自然に身についており、トラブルもなく順調に進んでいます。また昨年には、大勢が参加する業務発表会でプレゼンを行い入賞するなど、道院長として人前に立っていることが活かされています。
日々何事にも、積極的に取り組む姿勢を崩さず、「当たり前のことを、誰にも真似できないくらい、当たり前に続けること」すなわち、「凡事徹底」を肝に銘じその道のプロフェッショナルを目指します。

―――仕事や家庭(子育て)についてどの様に両立させているか、(または日常にどう生かされているのか)工夫されている点をお聞かせ下さい
仕事・家庭・道院(少林寺拳法)の3つをバランス良く保つことは、至難の業です。年齢を重ねるほど、仕事でも重要なポストになってきますので、修練日は常に「何事もないように」と祈りながら、終業を待っています。周りの同僚達も活動に理解があり、修練日の夕方には用事を入れない配慮をしてくれています。本当に有り難いです。
もちろん、家族の理解なしには絶対にできません。週末は修練日でもあり、行事があると、1ヶ月以上週末は家を空けることも少なくありません。子どもが病気で寝込んでいても、道院に向かうのは心苦しいですが、妻は道院活動に理解があり、文句一つ言われたことはありません。絶対に頭が上がりません(合掌)
このように、職場や家庭で理解が得られているのは、少林寺拳法の活動を中途半端な気持ちでなく、不退転の覚悟を持って真剣にやっているからこそだと思います。
しかし、迷惑掛けている分、時間が無いという言い訳だけはしないように、何事も迅速かつ、真摯に一生懸命取り組む努力と惜しまず、また周囲への感謝の気持ちだけは忘れないよう心掛けています。

―――将来、道院長を目指す全国の拳士へ、一言エールをお願いします
道院長にあこがれを持っているけれど、背負うモノが大きいため、どうしても、後ずさりしてしまっている人は沢山いると思います。道院長を目指す年代は、職場や家庭でも多忙を極めている頃で、それに加えて道院の運営ですから、一歩踏み出すにはかなりの覚悟が必要です。でも結論から言うと、「なんとかなる」ものです。
私が設立を思案しているときに、この言葉を多くの先輩道院長から頂きました。その時は、そんなに楽観的になれないと思っていましたが、今はその言葉が自分の支えになっています。苦難、困難、災難・・・決して無難な道ではありませんが、「なんとかしよう」と前さえ向いていれば、思いもよらぬ良縁ができ、万事上手く進みます。
最近は、この苦境を乗り越えればどんな道が開けるのかと期待さえ持てるようになりました。「感謝」の気持ちさえ忘れなければ大丈夫です。
道院長になって、自分の人生観は大きく変化しました。もし、チャンスを掴んでいなければ一生後悔したと思います。もちろん、これまで一度も後悔したことはありません。 チャンスが来たなら迷わず掴んでみて下さい! 「なんとかなる」