vol.59 精華道院 道院長 柴田 昭三

2018/07/01

道院長として得られるもの
精華道院 道院長 柴田 昭三

道院名:精華道院
道院長名:柴田 昭三 (しばた しょうぞう)

中導師、准範士、六段 350期
1968年3月19日生まれ 50歳
出身地:京都府京都市
南京都高等学校(現:京都廣学館高等学校)卒業
職 業:ヤマト運輸㈱ 配達員
1978年 入門
2001年 道院長代務
2003年 精華道院道院長 現在に至る 

精華道院 道院長 柴田 昭三

―――道院長になろうと思ったきっかけは何でしょうか
 精華道院を設立した前道院長の高田昌弘先生の入院がきっかけです。
 当時は道場長として普段通りに修行をしていて、自分自身も道院長になろうとか、いつか道場をとかいう具体的な考えもなく、とにかく技術の研鑽と道場での日々を過ごしていた時でした。
 ある日突然、道院長から呼び出されて駆けつけると、体調が悪く病院に診察に行かれたらそのまま救急にて入院することが決まり、しばらく代務にて稽古を見ることになったことが始まりです。
 その後の検査の結果、残念ながら癌であること、先生ご自身が余命宣告をしっかりと受け止められて、私に道院を託すことを病床から指示されました。
 私自身は、急なことで、まずは先生が病気であることも受け入れられませんでしたし、何より、急にと言われても全く心の準備が間に合わないまま、代務としてですが、指導者としての一歩を踏み出しました。

―――道院での指導方針や、指導法としての工夫を教えてください
 正直に申せば、特にありません。
 しかし、私自身が子供の頃に入門してから修行してきた、高田先生の修練風景をそのまま受け継いでおります。
全体での指導も行いますが、自主的に習うという習慣を設けています。普段の修練時間は子供が1時間半、大人が2時間ありますが、その内の数十分程度ですが、フリーの時間を必ず作るようにしています。自分が決めた科目や疑問点を、私に直接聞きにくるまでは絶対に教えません。そこから自分から学ぶと言う積極性を養ってほしいと思っています。
 また、小学生までの拳士については、全部の科目を各自が習いに来るという目標を設定しており、独自の採点表を作成して、スタンプラリーに習って、きちんと出来たことが確認できたらハンコを押すようにしています。
 ハンコがいっぱいになったら、昇級試験のために道場内での仮試験。仮試験に無事合格したら昇級試験の本番を迎えます。進み具合は各自により違いますが、この方法は私が子供の頃から変わりません。

―――道院長になって出会った感動のエピソードをお聞かせください
 私は少林寺拳法を初めてからずっと、生まれ育った地元で修行を継続しています。地元の小学校・中学校の子供達が事情により休眠することもありますが、何年か経って、地元のスーパーやショッピングモールなどで、急に青年から声を掛けられたと思ったら、大人になったOB拳士だった、または、どうされていますかと年配の女性に声を掛けられたと思ったら、OB・OG拳士のお母様だったと言うことが何度もありました。
 道場を離れても変わらず覚えてくれている、気軽に声を掛けて貰えると言うことに感謝の気持ちになるのと同時に、すごく温かい気持ちになります。
 継続していて良かったと思える日常の出来事です。


―――その他に印象に残っている出来事、エピソードはありますか
 道院長になる前のことで、もう17年も前になりますが、結婚式を私の希望で、金剛禅式で執り行いました。
前道院長の高田先生が闘病中にも関わらず、導師をしてくれました。二人の親代わりの様な先生に見守られて結婚式を挙げられたことは大変印象に残っています。
 また、その式には多くの先生・先輩・友人が演武を披露し、祝辞をくださり、少林寺拳法一色で式を行えたことは今でも感謝でいっぱいです。
 

奥様の加奈子夫人と

―――道院長として、今後挑戦したいことや夢などを語ってください
 まだ精華道院からは新設の道院長が巣立ったことはありません。
 私の様に突然に指導者になる決意を迫られたということではなく、精華道院から、「先生、道院長になりたいです」という拳士を一人でも多く育てたいこと、精華道院から巣立ってくれる拳士が出て来てほしいと言うのが夢です。

―――個人として(一社会人として)頑張っていることや、目指していることがあればお聞かせください
初に述べた、前道院長の緊急事態に、代務として道場を任されたことが私の指導者のきっかけです。その際に家族と話し合い、仕事も道場を最優先で両立できる仕事に変わりました。
紆余曲折、色々あったのですが、現在の仕事について、ありがたいことに仕事が原因で修練の時間を削ったことはありません。
 ですから、健康で安全に1日でも長く、現役で今の仕事が継続できること。道場も継続できること。両立がきちんとできることが私の一番の目標です。

―――仕事や私生活(家庭、子育て)についてどの様に両立させていますか
 家内は道場で子供の頃から一緒に修練をして来た仲間です。地元も一緒、道場も一緒です。お陰様で少林寺拳法のことについてだけは、理解が深く、どんなことも少林寺拳法については受け入れてくれます。
 ただし、仕事との両立と言われるとやはり、厳しいと思います。
 私自身は奇跡的に就業時間が修練に影響がない仕事を見つけることができましたが、家内は会社員として異動もあれば、フルタイムの仕事に残業ももちろんあります。
 もし自分に置き換えたらと思うと、道場との両立は厳しいと感じます。
 私生活では、私と家内の食の好みや行きたい場所も全く違うのですが、二人の唯一の共通点が少林寺拳法なので、私生活も少林寺拳法優先になってしまいます。今は二人で老後に向け、何か二人でできる、少林寺拳法以外の趣味を見つけようとよく話をすることがあります。

―――最後に、将来、道院長を目指す全国の拳士へ、ひと言エールをお願いします
 私は子供の頃に近所の友人達と習い事として始めたのが少林寺拳法でした。多くの少年拳士達が経験する、受験やクラブなどで友人が少しずつ休眠をする中で自分も受験をきっかけに少林寺拳法から離れたことがあります。
 その後、運動不足を理由に社会人になって復帰した少林寺拳法で、初めて、「友人といる時間が楽しい道場」から、「少林寺拳法を楽しむ道場」に変わりました。
 少林寺拳法を楽しみたい。その思いがあれば道院長になる事は素晴らしいことだと思います。
厳しいことも多いですが、縦の繋がり、横の繋がり、道院長になったことでたくさんのご縁に恵まれています。
 ただし、実際に道院長になってみて、家族の理解なしでは道院を運営するのは厳しいと感じます。仕事にしても、異動や転勤が伴うような仕事なら職場の理解と会社として自分のステップアップにも、もちろん支障があると思います。
 全国の道院長の先生方は、日曜・祝日も行事で、1カ月のうち半分くらいは少林寺拳法に費やしているのではないでしょうか。そんな生活が何十年も続くことを家族が理解して応援して支えてくれないと自分も楽しく、家族も楽しい、両立生活は難しいと思います。
 でも、そこが出来たら、得られる時間も人の縁も、普通に社会人として仕事だけをしている毎日より、喜びは何倍にもなると思います。