vol.67 現代社会に役立つ少林寺拳法として進化すべき
2019/12/01
少林寺拳法が創始されたのは1947年。
創始者・宗道臣は、敗戦により自信を喪失し、他人のことなど考える精神的ゆとりもなくなっていた日本において、日本の復興は日本人が自信と勇気と行動力と慈悲心を養い、自己を確立し、人や社会のために役立つことを喜びとできる人を育てる以外にないと確信し、その手段として、“教えと技法と教育システム”を兼ね備えた少林寺拳法を創始しました。
それから72年。日本はもとより世界は激変しました。創始者の急逝により私が第二世を承継したのは1980年でした。当時の日本は急速な高度経済成長期の延長線上にあり、まだバブル真っただ中で、1970年代に急速に増えた少年少女拳士が全国で少林寺拳法を楽しみ、その保護者の皆様がゆとりを持って子どもたちを応援できる時代でした。核家族化はしてはいましたが、それでも三世代親子のつながりはまだ強かったように思います。
1980年代後半から90年代に差しかかると、日本社会は徐々に減速を始め、バブル崩壊とともに若者の趣向も出世や向上より安定を求めるようになり、集団で楽しむより“個”を好むようになりました。もう化石のような言葉ですが、「喧嘩に強くなりたい」という人が入門者の7~8割を占めていた時代から、「精神的に強くなりたい」とか「友達がほしい」という人や健康志向の人が大半を占める時代へと変化してきました。
先月、愛知県豊田市で開催された全国大会の「弁論の部」では、幼いころの家庭環境の影響で、その後鬱になり何度も自死を考えたという女性が登場しました。その女性は、少林寺拳法との出会いにより変化し、道院長のひと言によって自信を取り戻し始め、自己肯定感を持つことができ、親御さんとの関係も改善したという、とても嬉しい金剛禅の教えどおりの体験と、手段としての少林寺拳法の環境が役立ったという事例でした。表彰式では、「生きていてくれてありがとう。これからはあなたが誰かを助けてね!」と思わずハグしてしまいました。自分の可能性を信じる。人は変われる……。そんな体験ができる場所をもっとつくりたいと思います。
世界初の異常な超少子高齢社会の入り口に立つ日本。これから2045年ごろまでは、施設・家庭共に介護の負担を軽減する方法の新しい取り組みや、中高年層の健康寿命を延ばすための活動が、次世代の活力を生み出す元となります。
そして、多くの人が楽しく集まる場も有し、人と協力し合うことを当たり前とする文化があり、孤独とは無縁の環境が少林寺拳法にはあります。
現代社会に必要な要素が少林寺拳法の文化としてあるのであれば、50年前とは違っていたとしても、現代社会に役立つ少林寺拳法として進化すべきだと私たちは考えています。
今月末をもって私は少林寺拳法グループ代表を退任し、次世代に引き継ぎます。約40年近い在任期間中、ずっとこだわり続けた「社会で必要とされる人として生きる。そんな力をサポートする少林寺拳法」。
これからも皆様の力になれることでしょう。