第5回【対談】少林寺拳法と介護技術②

2019/11/29

少林寺拳法の技法と理法からできた介護技術を少林寺拳法へお返しする
・・・根津先生の思いを少林寺拳法が受け止めます。対談後半です。

第2回 <今こそお返しする時期>

根津 良幸(ねづ よしゆき)
株式会社 One to One 福祉教育学院 代表取締役
埼玉医科大学 客員教授

自身が脳梗塞に倒れ、2年間で要介護5~要支援1の7段階を体験し、介護・リハビリ生活を送った中から自分たち家族が生きるための術(すべ)として家族のために編み出した「片腕
1本でできるまったく腰に負担のかからない介護テクニック」を腰痛で悩む介護現場職員や介護を必要とする家族のためにこの術を公開し始め、年間5,000名を超える日本一受けたい講座の講師として活躍中である。
また、埼玉医科大学において1・2年生の必修科目として「【地域・介護医療】地域医療と介
護の連携」、「【ラポール形成】患者・家族・医師との信頼関係」や3年生の必須科目「行動科学と医療倫理」の講義や埼玉医科大学国際医療センターにて新任ドクターに対してコミュニケーションの講義・指導を行っている。
著書に『片腕1本でできる 腰に負担のかからない介護技術』(ナツメ社)。

川島 一浩(かわしま かずひろ)
一般財団法人 少林寺拳法連盟 会長
少林寺拳法世界連合 理事・事務総長
一般社団法人 SHORINJI KEMPO UNITY理事
少林寺拳法 八段 正範士

少林寺拳法で介護ができる

少林寺拳法でできる介護技術はすべて、5つの要素から成り立っています

根津:ベッドに置かれていた、この『少林寺拳法のススメ』(1999年発刊ベースボールマガジン社)については、誰一人ほんとに触ってなかったんです。だからこの本は開祖が置いてくれたんだと、今でも思っているんです。
そして少林寺拳法の理法と技法、「相手が力なしで倒れる崩し」を介護の技術に当てはめていったら、級拳士の技だけで起き上がりから立ち上がりまで、すべてできちゃった。
私は、ヘルニアが持病の妻でもできるこの介護技術を、腰痛に悩む現役の介護従事者にこそやっていただくべきだと思いました。まさに、「世界の平和と福祉に貢献せんことを期す」という開祖の言葉があるように、少林寺拳法の教えや技術が介護にも役立てる。・・・これは、開祖のお導きだと感じました。ならばこそ、少林寺拳法で介護ができるってことを証明していこうと考えたんです。
これは私なりの分析ですが、少林寺拳法の技法を分解したら、人が倒れるのは押す、引く、まわす、触れる、支点を変える…この5つだということが分かったんです。それを介護技術に応用したところ・・・できちゃったんです(笑)
その数378種類。介護度別、そして状態別にありますが、すべてその5つからできています。
でも、一拳士の私が、いきなり「少林寺拳法で介護ができる」と声高々に叫んでも、本山は受け入れてくれないと思ったんです。ですから最初は少林寺拳法の名を用いずに、この『片腕1本でできるまったく腰に負担のかからない介護テクニック』(ナツメ社)としてまず世に出し、世間の反応や受入を見て、購入者の累計人数が10万人を超えたところで、少林寺拳法にお返ししようと考えたんです。そしてこのことを、まずは宗道臣塾で宗由貴代表と鈴木義孝先生にお話しようと。

少林寺拳法を知っていると介護が分かる
  介護ができると少林寺拳法が上手くなる

「相手に自分の力を伝えない」これがポイントです。

川島:私が根津先生に初めてお会いしたのは、昨年、本部で職員向けの介護体験の講師をしていただいた時です。その時に根津先生から「川島会長のこの本(『少林寺拳法のススメ』)が、介護技術のヒントになりました。」とおっしゃられたことを記憶しています。いきなりでしたから私も「えっ⁇」と驚きました(笑)

根津:そうでした。そうでした(笑)

川島:でも、それがきっかけで今日の対談ということになったので、縁って不思議ですね。
この『少林寺拳法のススメ』は、新井庸弘先生(一般財団法人 少林寺拳法連盟 前会長)のときに、たまたま私が被写体となっただけで、「崩し・落とし・外し」は、昔からずっとやっている理法なんです。
根津先生から「講習会で解説されている理法って、介護にもつながりますよね。」って言われて、そして実際に介護技術の体験をしてみて、改めて「こういうことか」と。
ほんとに目から鱗だったんです。介護技術を身につけると同時に、より少林寺拳法の技が理解できるという相乗効果もありますから。
でも正直言うと、最初は不思議で仕方がなかったですね。根津先生に教わった
通りすると、女性が体格の良い男性を楽々と抱き起こしますから(笑)

根津:私も介護施設を運営しているのでよく分かるんですが、実際介護の現場では、抱く、つかむ、持ち上げるといった動作が行われています。
すべて持ち上げる動作が今の介護なんです。我々はこれをパワー介護と呼んでいます。
これを少林寺拳法の視点からみたらどうか。・・・パワー対パワーで相対しても、相手は絶対倒れませんよね。自分の力を相手に伝えないこと、ここに大きなポイントがあるんです。川島会長が「木葉返」を教えるときに、「握っちゃダメ」と説明されるのと同じなんです。木葉返で相手の指先をつかむとどうなるか、相手は反応しますから、手を引くなり抵抗するなりして、技がかかりませんよね。そこでそうした反応をさせないためにはどうするか。触れればいいんです。それも掌ではなく、中指、薬指、親指の3本の指で掛手をするだけ。これだけで人は崩れるんだと。

根津:また、人は横からの力には強いけれど、前後には弱いですよね。前に倒れたり、尻もちしたり。なので、倒れやすい前3方向、後3方向に崩せばいいんだと分かったんです。要するに、力がニュートラルな状態になる位置に一旦体を持ってきて、人が倒れやすい方向に引いて導けば、立ち上がっちゃう。
手の技は後でいいんだと。まず、崩せばどんな技もかかるんだということが分かったんです。
そして、それを実証していくうちに自治体から講習会の依頼があり、初めて東京都で公開してから1年足らずで、東京23区中22区の行政、そして社会福祉協議会まで広がっていきました。
書籍『片腕1本でできるまったく腰に負担のかからない介護テクニック』が今度7版目ですが1度も宣伝していません。この介護技術が本物かどうか見極めたかったのもありますが、読者に先入観なく手にとってもらいたかったんです。実はTVからのオファーも3本あったのですが、お断りしました。
その頃、宗道臣塾に絶対参加しようと思い始めました。本山に行って宗由貴代表にお会いしても、私の話なんていきなり聞いてもらえないかなとか、会長ならどうだろうとか、色々考えました。そして、結論として宗道臣塾に参加するしかないなと。
宗道臣塾に参加して、宗由貴代表の価値基準に触れました。私も話をさせていただきました。そこから、物事が、介護プロジェクトが立ち上がって…あれよあれよという間に話がすすみました。
私の命は、開祖からいただいた命だと思っています。でも、開祖はもういらっしゃいません。
ですから、宗由貴代表、宗昂馬副代表、そして少林寺拳法をされる皆さんに、この「少林寺拳法でできる介護技術」をお返ししようと考えています。私が今までやってきた実績が、少林寺拳法で介護ができることの根拠となる訳です。嘘であればここまでの広がりはありません。
行政で開催される講習会でも、たった1週間の告知で70名から80名集まります。今までで1番大きかったのは、1日1200名の講習会です。600名ずつ2部に分けて行いました。
この介護技術は間違いなく本物だと思っています。少林寺拳法の教えと理法で間違いなく介護ができます。私が断言します。それを日本全国の拳士、そして拳士から地域の皆様へ。まさに社会貢献という開祖のお言葉を体現できるものだと信じています。それを私は2019年、2020年ですべてお返しします。

川島:今が、ベストのタイミングということなんですね。我々少林寺拳法グループも根津先生の熱い思いをしっかり受け止めていきたいと思っています。
本日はありがとうございました。